治療をしているのも、写真を撮っているのも米軍です。「米軍は捕虜に対して丁寧に治療を行っている」とアピールするプロパガンダ的な意図が含まれる可能性が高い写真だなと思いました。そういうことが沖縄戦の写真をカラー化するうちにわかるようになっていって。
印象的なのは、カメラを睨みつけるような女性の視線ですよね。沖縄戦では「米軍に捕まって残酷な目にあうよりは、自分たちで死ぬことを選ぶ」と考えるぐらいに追い込まれた方々が沢山いらっしゃいました。その中のお一人が米軍に治療されながら米軍のカメラを睨みつけて、言葉にならない表情をされている。
僕はそれまで残酷な写真はカラー化しないと決めてやってきましたが、この写真をカラー化して公開するべきかどうか、すごく悩みました。この女性から「あなたは、本当に覚悟があってやっていますか?」と問われてるようにも感じました。
「写真を撮っているのは米軍」という事実
――そういった背景は、知識のない状態で写真を見るだけでは伝わらないことですね。
ホリーニョ ほかにも女性が手を組んで笑顔で写っている写真があって。例えが適切でないかもですが、まるでアイドルみたいなポーズで写る方が1945年の沖縄におられたんだとびっくりしました。本当に過酷な沖縄戦の中において、一瞬でも笑顔になれるような瞬間があったならいいなと祈るような気持ちで最初はカラー化しました。
でも、この写真を撮っているのも米軍なんです。個人的な願望をかさねていたけれど、状況によっては複雑な意味を持つ笑顔なのかもしれない。そういうことをじわじわとずっと考えていました。『カラー化写真で見る沖縄』の出版をきっかけに、本の監修者やトークイベントのゲストに来てくれた専門家の方々と意見交換する機会があったので、自分が抱いていた危惧についてお話しして、どんな撮影状況がありえたのか、いろんな可能性を教えていただきました。
『カラー化写真で見る沖縄』の監修者解説にもある通り、僕がカラー化している1945年当時の沖縄の写真はほとんどが沖縄県公文書館所蔵のものなのですが、それらは全部米軍が撮ったものでもあります。だからプロパガンダ的な意図があるかどうかも常に気にしながら見なければいけない。ただ写真をカラー化して見せるだけじゃなくて、そういった背景も合わせて伝えていかなきゃいけないんだってことをすごく思いました。
――直接的な暴力の瞬間を写した写真じゃなくても、当時の状況を鑑みると「残酷ではない」写真だとは決して言い切れないということですね。
ホリーニョ 2025年2月に『カラー化写真で見る沖縄』を出版して、ありがたいことに沢山のメディアから取材のご依頼をいただいたので、沖縄を訪れた際に本の感想について声をかけてもらうことが増えたんです。いただくご意見や感想は多様で「もっと残酷な写真もカラー化するべきではないか?」とご意見いただくことがあります。
一方で「あの写真集でさえ、当時の沖縄戦体験者の方は見られないよ」という感想もいただきました。沖縄戦を経験した方はそれからずっとトラウマを抱えて生きているから、そもそも表紙が1945年の沖縄で子どもを背負って逃げている女性の写真である時点で、辛くて見られない方もいらっしゃるかもねと。






