2人の子どもを背負って遠くを見つめる母の表情
――この写真を表紙に選んだのはホリーニョさんですか?
ホリーニョ そうです。沖縄の出版社であるボーダーインクさんで編集・出版してもらったのですが、編集者の方から「表紙を選んでいただけますか?」とご提案していただきまして。かなり悩んだんですが、この本を象徴する1枚だと思ったのでこちらを選びました。
この写真は、1945年6月の首里城近辺で撮影されたものです。沖縄県公文書館では「避難する母親と子供たち」とキャプションがついている写真ですが、当然撮影してるのは米軍なので、この後3人は拘束されて民間人収容所に連れて行かれるのかもしれません。このまま平然と道を歩いて行ったりはできなかったと思います。
息子2人を背負って逃げなければならないお母さんの表情が険しくて、背負われてるお兄ちゃんが前にいる弟の手を握っていますよね。心配して庇おうとしているようにも見える。その兄弟が少し物珍しそうに見つめる視線の先には、米軍の兵士がカメラを構えているわけですよね。そんな風に、写っている人たちの表情から、いろんな複雑な気持ちが伝わってくるように感じます。
――確かに、女性の表情も印象的ですね。
ホリーニョ 見つめる先にどんな光景が広がっているんだろうって思いますよね。上から光がまっすぐ当たっていて影が横ではなく下に伸びています。6月の沖縄で、たぶんお昼頃に炎天下の中で撮られたんだと考えると暑さまで伝わってきます。どうかこの家族が無事に戦後を迎えていて欲しいと、写真を見るたびに祈るような気持ちになります。
白黒写真を見るときは、写り込んだものを理解するための前提知識を持ったうえで、何を重視して見るかの目的意識や集中力が必要になるのかなと思います。一方で、写真をカラー化することにはデメリットや注意すべき点ももちろんありますが、「あ、これは影やな。山やな。空やな」と一瞬で感覚的にわかるようになるのがメリットの一つだとも思います。
AIが些細な要素を拾ってくれて、人間が認識しやすい様に補助線を引いてくれるので、理解がサポートされる感じがあります。だからこそ、当時の状況がどうだったのか想像するきっかけが生まれやすくなるのかもしれません。表紙に選んだお母さんと子どもの写真にはそれらのカラー化写真の特徴がよく出ていると思います。だから選んだんです。






