結末を知りながら引き込まれる。それが史実を基にした映画の醍醐味である。第二次大戦前夜のミュンヘン会談。その舞台裏を描いた歴史サスペンス『ミュンヘン:戦火燃ゆる前に』(日本劇場未公開。ネットフリックスで配信中)はその好例だ。1938年、この会談でドイツにチェコスロバキア・ズデーテン地方の割譲を認めたことがナチス・ヒトラーの増長を招き、約1年後の第二次大戦へと繋がった。その歴史的経緯を前提として「どうすればよかったのか」と問いかけてくる。

 物語はミュンヘン会談の6年前、英国の名門オックスフォード大学のパーティーで英国人男性、ドイツ人男性、そしてユダヤ人女性の仲良し3人組の学生が酒を酌み交わし、1本の煙草を回し吸いする場面から始まる。

「新しいドイツは期待できる」

ADVERTISEMENT

 とドイツ人ポールが言うと、

「人種差別主義者の集団よ」

 と彼の恋人、ユダヤ人のレナが返す。この頃、第一党へと躍進したナチスのことだ。まだこの時、3人はこの先の数奇な運命を知らない……。

©佐々木健一

 6年後、英国人のヒューは時の首相チェンバレンの秘書に、ナチ党に入れ込んでいたポールはドイツの外交官としてそれぞれ英独の政治中枢に身を置いていた。その2人が思わぬ展開であのミュンヘン会談で相対することとなるのだ。実は彼らは6年前のパーティーの後、ナチスやヒトラーを巡って激しい口論となり、絶交していた。だが、ポールはその後、ユダヤ人の恋人レナを襲ったある悲劇をきっかけに密かに反ナチ運動に身を投じていた。互いの真意が分からぬまま、2人の若き官僚はある極秘文書を巡って共闘することとなる。そして、英国首相チェンバレンにナチスへの宥和政策を転換するよう説得を試みるのだが……。

 物語の結末は歴史が語っている通りだが、ウクライナ情勢や日本の今の政治状況が重なって見えてくる。「歴史のif」に思いを馳せる良作だ。

INFORMATIONアイコン

『ミュンヘン:戦火燃ゆる前に』
https://www.netflix.com/jp/title/81144852