「多くのアクションキャラクターの中でいちばん人を殺しているのは誰か? ジョン・ウィックでしょう。彼の場合、観ているお客さんの共感を得ながら、もっと――という気分にさせてしまうのが不思議です。このシリーズの魅力のひとつだと僕は捉えています」
レン・ワイズマン監督が挙げたのは、キアヌ・リーヴスが演じた伝説の殺し屋。2014年、第1作の『ジョン・ウィック』(JW)が米国で公開されると、裏社会に定められた掟(ルール)と滋味に富んだ住人が蠢くJWワールドが支持され、2023年までに4作が作られる人気シリーズとなった。
そのJWユニバースに更なる世界観とキャラクターを送り込む最新作が、レン・ワイズマン監督による『バレリーナ:The World of John Wick』だ。
主人公は女殺し屋のイヴ・マカロ。『007/ノー・タイム・トゥ・ダイ』やNetflix映画『ブロンド』のアナ・デ・アルマスが演じる。
シリーズに生きる殺し屋としてジョン・ウィックにも引けを取らないイヴだが、監督はアクションを撮るだけに腐心してはいなかった。
「イヴがどんなに強くても、相手にできるのはせいぜい2人でしょう。ではどう戦えば形勢不利で多数の敵を相手に生きのびることができるのか。そこには激しさだけではない、アクションのリアリズムを機能させています」
シリーズでおなじみの近接戦は本作でも見どころだが、それは単に銃を撃ち殴り合うだけではない、一手、また一手と相手を死の淵へ詰めていく描写が説得力になっている。
「一見、現実離れと映る場面もあるかもしれません。でもそれは目の前の脅威に対処するしかない、戦う者にしか見せられない凄まじいまでの現実とも言える。イヴは襲いかかってくる敵を1人ずつ、確実に仕留めて次の敵に向かいます。今すべき唯一のことだからです。観る人の共感はそこに生まれるのだと思います」
無数に築き上げられる“ピリオド”の山は、イヴが自ら選んだ道のりに避けられないものだ。
幼き日、ある男たちによって父を殺されたイヴは、孤児を集め暗殺者とバレリーナを養成する組織ルスカ・ロマで復讐を誓い、肉体と精神と技術を身につける選択をした。そこはかつて、ジョン・ウィックも育った場所である。
「この作品はいくつかのレイヤーで構成されています。怒り、復讐、そして秘められた過去。暗殺者としての素養にイヴは気付いていませんが、そこには父親が語らなかった秘密が関係していくことになる。リベンジストーリーでありながら、自己発見の物語でもあるのです」
殴られ、蹴り飛ばされ、階段から突き落とされる。それでもイヴは相手より一つ多く有効な手を見出し、生をもぎ取る。屈強な男に怯まない心が、彼女を強くしていく。
「キャラクターには魅力的であってほしい。でもそれはキラキラしたものではない、使い込まれていて汚れていて、どこか疲れている、そういう脆い面が血を通わせていくのだと思います。……僕があんまりキラキラしてないから、そう考えるのかな(笑)」
とにかくフルマラソンのようにアクションが続いていく。
「セットではいつもスタントマンと動きを確認しています。自分ならここでどう動くか、と常に考えるのです。本作に、“仕事”を終えたイヴが現場から立ち去る場面があります。男たちが倒れるその場所では“数分前”にどんな乱闘があったのか。それを、破壊された物や落ちている物で見せている。映像には映らない、モブキャラが戦った時間にも物語を行き届かせています」
シリーズ3作目と重なり合う時間は、ジョン・ウィックとイヴ、運命の交錯も見られる。
Len Wiseman/1973年、カリフォルニア州生まれ。美術スタッフとして『インデペンデンス・デイ』(96)などに関わった後、2003年『アンダーワールド』で監督デビュー。主な監督作は『ダイ・ハード4.0』(07)、『トータル・リコール』(12)ほか。




