「このビール、飲んでいいんじゃねぇか?」

マイペースな武藤、クレバーな蝶野、そしてちょっとトンパチな橋本。のちに闘魂三銃士となるこの3人のバランスは奇跡的にマッチし、新弟子のなかでも連れ立って行動することが多かったという。

「最初に巡業に連れていってもらったのが、たしか大宮スケートセンターだったと思うけど、俺たちはまだデビュー前だったから完全にお客さん扱い。練習も先輩たちと一緒にやらせてもらえなくて、会場の外でスクワットをやらされるだけだった。

会場設営もセコンドもやり方がわからないから、自主練が終わったら、俺らはとくにやることがないんだよ。それでドン荒川(荒川真)さんが、『お前らはまだ見学だから、先にシャワー浴びとけ』と言うから、『わかりました!』って俺ら3人で順番にシャワーを浴びて、着替えて控室で待機してたんだよ。よく見ると、その日は何かのタイトルマッチがあって、控室に勝利者用のビールが置いてあった。

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それを見つけた武藤さんが『おい、これ飲んでいいんじゃねえのか?』って言い出した。橋本選手も『誰かの差し入れだろうから、大丈夫だよ』って、ビール開けて飲み始めた。じゃあ俺もってことで3人でグビグビ飲んでたら、先輩の小杉(俊二)さんが控室に戻ってきて、『バカヤロー! お前ら何やってんだ!』ってムチャクチャ怒られた。そりゃそうだよね。まだ興行やってるのに、入ったばかりの新弟子が湯上がりにビール飲んでるんだからさ(笑)」

周りを見る余裕がなかった新人時代の蝶野

武藤と蝶野に先立ち、橋本は1984年9月1日、後藤達俊戦でデビュー(練馬区南部球場特設リング)。武藤と蝶野は同年10月5日、互いが対戦する形で同時デビューとなった(越谷市立体育館)。奇しくも武藤のプロレスラーのキャリアは、蝶野との試合で始まり、蝶野との試合で終わっている。

こうしてデビューを果たした3人は、前座戦線で試合が組まれるようになり、道場だけでなくリング上でも、ライバルとして切磋琢磨を繰り広げていった。