「夫を殺し解体する」原作のグロテスクな描写

津守陽(以下、津守) この映画のことは知っていましたが、今まで観る機会がなく、今回初めて映画を拝見しました。

リム・カーワイ(以下、リム) 原作は僕の生まれたマレーシアでも当時かなり話題になった有名な小説です。タイトルからしてショッキングで、スキャンダラスなイメージがありました。映画にはそこまでショッキングな描写はありませんでしたが、原作はもっと過激なのでしょうか。

津守 そうですね。原作は作者の李昂の作品の中で一番売れて、一番多くの言語に翻訳されている代表作です。発表された当時の台湾でも、かなり賛否両論を巻き起こしました。どうも映画版は公開当時こそヒットしたらしいのですが、その後、小説と同じようには注目されてこなかった。それは今おっしゃったように、衝撃と迫力が圧倒的に原作の方が強かったということがあるのではと思います。

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リム 当時の台湾はまだ戒厳令下で、表現の規制も非常に厳しかった。映画ではレイプシーンや夫を殺害するシーンも非常に淡々と描かれており、もしかしたら映像で過激な表現をすることが難しかったのかもしれません。文字であればそれが可能な時代ということだったのかもしれません。

津守陽氏(左)とリム・カーワイ監督 提供:台湾映画上映会2025

津守 おそらくそうだと思います。映画と小説で特に違うのはラストです。夫を殺すというところは同じなんですが……。

リム 映画では包丁を振り上げる主人公や血しぶきは見えますが、斬られる夫はまったく映らないので、淡々としています。無理やり性行為をされたりご飯を食べさせてもらえなかった主人公が、ついに復讐として夫を殺すという感じでした。

津守 直前に夫に「豚の解体をしろ」と迫られ、豚の内臓を浴びせかけられた主人公は失神してしまいます。小説では、追い詰められた主人公は「豚の解体をしなければならない」という思いで、幻想の中で夫を豚だと思いこみ、その解体をするかのように殺すという、非常に衝撃的なものなんです。殺し方も、まさに豚と同じように夫を丁寧に解体していく様子が、内臓の話なども含めてこと細かに、グロテスクに描かれています。そういう描写が映画にはまったくなかったですね。

上映会の様子 提供:台湾映画上映会2025

リム それはずいぶん違いますね。原作者はどう思ったんでしょうか。

津守 インタビューなどを読むと、やはり少し不満があったようです。「大島渚さんに撮ってもらいたかった」というようなことをおっしゃっていて、「私も同じ気持ちだ!」と思いました(笑)。もし大島渚監督がこの題材を撮っていたら、もっとすごい映画になっただろうなと想像してしまいますね。

リム 確かに(笑)。