――あれ、そうですか(笑)。

佐々木 ぜんぜん魅力じゃないって言ったらあかんのですけど、でも(力強く)、役者として板の上にちゃんと立てているかっていうのが、やっぱり自分のなかで試されているなと思うんです。お客さんにも試されているというか、(さらに力強く)演劇のお客さんは、その時間、その場所に、お金を払って、観に来てくださってるし、舞台を一緒につくっているというところは大きいですね。

 

 僕の芝居をつまらないと思われても仕方ないとは思えても、演劇をつまらないと思われたくないっていう。もちろん、面白いに越したことはないんですけど(笑)。

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――興味深いですね。自分の芝居は面白くないと思われても?

佐々木 僕が下手なんやなって思われてもええけど、やっぱり演劇は、演劇の力っていうのを面白いと思って欲しいなと思って。

この歳だからできる“ルーマニアで一人芝居”という挑戦

――演劇の力といえば、今年5月から6月にかけて、ひとり芝居『ヨナ-Jonah』の公演で東欧4カ国6都市をまわられていました。初の海外公演ということでしたが、いかがでしたか。

佐々木 ひとり芝居で単独でほぼ2カ月ルーマニアで生活しながら公演するって、かなりすごい挑戦だねってみんなに言われて。でも僕はこの歳だからこそ、そういうことができるようになったのかなと。若いころは海外公演とか考えてなかったですし、この歳でやらせてもらえるのはありがたいなと思って、挑戦ではあるけれど、だったらめちゃめちゃ楽しい挑戦にしようと思って、行きましたね。

 

 演劇をやってるときの稽古中というのはもうずっと、洞穴の中にいるような生活ではあるのですが。

――6月26日にはシビウ国際演劇祭で上演されて、佐々木さんは「ウォーク・オブ・フェイム」を受賞されました。演劇の街といわれるシビウの歩道に、佐々木さんの名前を刻んだ星が。賞をもらったときは、どんなお気持ちでしたか?

佐々木 もううれしいとかではなくって、僕が何かを果たした、という訳でもなくて。『ヨナ-Jonah』という作品を一緒につくった仲間や、これまで名前が刻まれた(故・中村)勘三郎さんや野田(秀樹)さん、(演出家の)串田(和美)さんが過去に成してこられた繋がりがあった上での、僕はあくまでも通過点であって、感謝しかなかったです。星というかたちの、感謝の印をここに残していただけたというだけです。この作品に関わってくれたみんなが誇りに思ってくれたら、お互いにとってすごくいいことだなと。

――10月1日からの国内公演は、いわゆる凱旋公演になるでしょうか。

佐々木 凱旋公演になるんですかねえ。ルーマニア制作の舞台を、日本のみなさんにどう観ていただけるかというところですよね。ルーマニアでも日本語でお届けはしていたんですけれども。

 というのも『ヨナ-Jonah』はルーマニアのマリン・ソレスクという詩人の代表作で、旧約聖書のクジラに飲み込まれた男の話をもとにしていて、ルーマニアでは誰もが知っている作品なんですよ。たとえば、日本でいったら宮沢賢治の作品を、ルーマニアの俳優が単身でやってきて、日本のお客さんの前で演じるようなものです。

 演じていて本当に印象深かったのは、ルーマニアの方たちにとってはわからない日本語という言語を、一生懸命聴いてくれるんですよね。あっ、こんなに耳を澄ませて聴いてくれているんだと。もちろん字幕もあるんですけど、彼らはヨナのことを知ってるから、字幕を読まなくてもわかる部分もあったのかもしれませんが、魚に飲み込まれるという話なので、けっこう暗がりが多いんですよね。暗闇のなかでわからないことばを聴こうとするし、見えないものからなにかを見つけようとしているのを、すごく感じました。