やなせたかしとその妻をモデルに描いたドラマ「あんぱん」(NHK)がいよいよ完結を迎える。ライターの村瀬まりもさんは「嵩(北村匠海)と身勝手な実母(松嶋菜々子)の関係が面白かった。アンパンマンには、やなせが母のイメージを重ねたキャラもいた」という――。

写真=時事通信フォト カルティエが日本に最初のブティックを開いてから50年を記念して開催した「カルティエと日本 半世紀のあゆみ『結 MUSUBI』展 美と芸術をめぐる対話」を訪れた松嶋菜々子さん(2024年6月10日、東京都台東区の東京国立博物館) - 写真=時事通信フォト

最終週で描かれた嵩と実母の「和解」

嵩(北村匠海)「母さんはずるく生きたつもりだった?」
登美子(松嶋菜々子)「少なくともあなたの100万倍、ずるく生きてきたわ」
「あんまりうまく……いかなかったんじゃないかな……」
登美子「生意気言って……」

連続テレビ小説「あんぱん」第26週「愛と勇気だけが友達さ」125話

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いよいよ最終週に突入した朝ドラ「あんぱん」(NHK)。これまで半年にわたって、絵本作家・漫画家のやなせたかしとその妻・暢をモデルにした人間模様を描いてきたが、やなせが70歳を迎えようとしていた頃、ついに絵本『あんぱんまん』シリーズがアニメになる段階を描く。

やなせがモデルである嵩(北村匠海)は、実母の登美子(松嶋菜々子)から、たびたび「ずるく生きろ」と言われてきた。戦争で召集されて軍隊に入るとき、漫画家になったもののヒット作を出せずにいたとき、ずるくなって生き抜け、成功しろとプレッシャーをかけてきた。母の「ずるく生きなさい」という言葉は、やなせも実際にそう言われたと詩に書いている。しかし、やなせは正直で誠実な性格のまま、ついに成功をつかむのだ。

アンパンマンを成功させたのは、あの悪役

実際に、国民的漫画『サザエさん』『ドラえもん』と同じようにTVアニメ化という成功のきっかけをつかんだのは、やなせがミュージカル「怪傑アンパンマン」(1976年)で、アンパンマンという物語に足りないものは悪役だと気づいたからだった。1979年、やなせは『あんぱんまんとばいきんまん』という絵本を出し、そこでばいきんまんが初登場する。

「たべるものをくさらせて、せかいじゅうのこどもをはらいたにしてやるんだ」と企むばいきんまんは、雷ショックのような攻撃で空飛ぶアンパンマンを墜落させ、アンパンマンの顔はぺちゃんこに。アンパンマンはなんとかジャムおじさんのパン工房へ帰還するものの、ショックで号泣してしまう。ジャムおじさんは激怒し、アンパンマンを巨大に作り直して、ばいきんまんを倒しに行かせる。