ドキンちゃんはアニメでおなじみ、ばいきんまんの仲間の女の子。わがままで怒りんぼ、自分のことを世界で一番かわいいと思っている。大きな瞳と小悪魔的なキャラクターで人気だ。その外見が、やなせの実母に似ているというのだ。

(母は)なにしろ頼り甲斐があります。強い気性で、眉は太くきりりと吊り上がっていました。

やなせたかし『ボクと、正義と、アンパンマン』(PHP研究所)

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「あんぱん」が愛される朝ドラになったワケ

ばいきんまんやアンパンマンが迷惑していても、わがままを押しつけ、ばいきんまんを困らせ、大好きなしょくぱんまんが他のキャラクターと仲良くしていると、嫉妬で怒りまくる。そんなドキンちゃん。

やなせは母について若い頃は「瞬間的低気圧」になることもたびたびあり、「母はときどきヒステリーを起こしました。このわけのわからない嵐のような荒れ方は、現在のボクには理解できますが、当時はわかるわけがありません。祖母とボクはおびえながら、おさまるのを待つよりしかたがありませんでした」(『ボクと、正義と、アンパンマン』)と振り返っている。

クラスメイトや職場の同僚なら、一時期の悪いイメージでその人柄が固定されてしまうこともあるが、家族の場合は数十年、多くは半世紀以上の年月をかけて付き合っていくものだ。人間は変わる。やなせにとっても、子供の頃はドキンちゃんのような母親に振り回されたが、「許してね」と謝られた“みそぎ”を経て変化し、大人になってからは友好的な親子関係を築けたのだろう。

「あんぱん」はそんな母子の関係をじっくりと描いたという点でも、朝ドラらしく幅広い世代が共感できる作品になったのではないだろうか。

村瀬 まりも(むらせ・まりも)
ライター
1995年、出版社に入社し、アイドル誌の編集部などで働く。フリーランスになってからも別名で芸能人のインタビューを多数手がけ、アイドル・俳優の写真集なども担当している。「リアルサウンド映画部」などに寄稿。
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