書籍『別府倫太郎』が刊行されたのは2017年のこと。当時14歳だった著者の別府倫太郎さんは現在22歳になりました。刊行当時、文春オンラインではこんなふうに紹介をしています。

〈インターネットで評判になった「別府新聞」は、雪深い新潟県十日町市在住の少年が3年ほど前にたったひとりで立ち上げたネット上の新聞です。

 別府君は、幼くして全身性の脱毛症を発症、身体の毛がすべて抜けてしまいました。また、小児ネフローゼという腎臓の病気にもかかり、薬の影響でムーンフェイスに。小学校3年生のとき、あることがきっかけで「学校にいかないこと」を選択し、その後「別府新聞」を始めます。著名人に会いにいったり、身の回りのことをエッセイに書いたりして、その文章の瑞々しさが次第に評判になり、このたび『別府倫太郎』として本になりました。〉

 それから8年。別府さんは文章や絵画、写真などの創作活動を続けてきました。このたび初の個展「 pour soi ― プール・ソワ ―」を開催(10月1日~4日、東京・紀尾井町の文春ギャラリー)。これを機に、創作活動について、そして書籍を刊行してから現在までの歩みについて聞きました。

別府倫太郎さん

アクリル絵の具との出会いで「水を得た魚のように」

――今回、個展を開くことになったきっかけはどのようなものだったのでしょうか。

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別府倫太郎(以下、別府) もともと、A4サイズの紙にコピック(水性カラーマーカー)で描くというスタイルだったのですが、2、3年ほど前にアクリル絵の具と出会い、キャンバスに描き始めました。自分で言うのもなんですが、そこからもう水を得た魚のようになって(笑)。画材とキャンバスの大きさが変わったことで、新しい世界に気づきました。

 自分の中には表現したいエネルギーがあるのですが、紙が小さいとどうしても縮こまってしまう感覚があったんです。でも、キャンバスが大きければ、そのエネルギーを際限なくぶつけられる。アクリルの表現にどんどんハマっていきました。

――大きさの変化は、やはり大きいですか。

別府 違いますね。言葉であれば無限に世界を広げていけますが、絵にはどうしても「紙」という制約があります。でも大きなキャンバスなら、時間をかけて世界を広げていける。この表現なら入り込めるかもしれない、と感じました。

 ただ、大きいとやはり制作に時間がかかります。個展で展示する長辺が2m超えの150号の作品は、制作に3ヶ月くらいかかりました。鉛筆で下書きをして、そこから色を決めて塗っていくのですが、塗るのにとにかく時間がかかります。塗っても塗っても終わらない感じですね(笑)。