目を引くタイトルである。“オオムタアツシ”って誰? そもそも人名? それとも別の何か? 少なくとも「大牟田」とは、福岡県最南端にある市の名前だ。そして、かつて炭鉱で栄えたその町を舞台とした新作映画――それが、このほど全国公開される『オオムタアツシの青春』(瀬木直貴監督)だ。

 主演は、筧美和子さん。念願だった洋菓子店を開くため、大牟田にやって来たパティシエ・五十嵐亜美を演じている。夢に対して真っ直ぐな反面、情熱ゆえの頑なさで暴走もする。そんな不器用さに人間らしさが滲む魅力的なキャラクターだ。この亜美という役柄を生き生きと演じる筧さんは、実に役にハマっているように見えるが――。

筧美和子さん

「亜美は、こうと決めるとなりふり構わず突っ走る勢いがあって、だから周りがほっとけずに手を差し伸べてしまう。その豪快さが魅力です。でも私自身は行動を起こす前にかなりぐずぐず考え込むほう。決断までに時間がかかりすぎて人を困らせちゃうくらい」と、筧さんは控えめに微笑んだ。そんな自身とは正反対と言える役にどうアプローチしたのか。鍵となったのは亜美が話す博多弁だった。

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「亜美は博多出身なので、当然セリフも博多弁です。そこで今回は撮影前から毎日、セリフを口に出して練習しました。おかげで亜美のキャラクターが自然と体に馴染んでいったんです。監督からも“亜美は頭で考えるより先に体が動くタイプ”と言われていたので、この方法が役作りに合っていたのかもしれません(笑)」

 筧さんにとっては記念すべき映画初主演となる本作。

「最初、自分が主演だとは思っていなかったので、台本をいただいた時にはびっくりしました。しかも、とても引き込まれる物語だったので、それも嬉しかったですね」

 初主演の気負いはなかったかと尋ねると、「プレッシャーより、いい映画作りに参加できることが嬉しくて」と答える。「主演を目指してやってきたわけじゃないので、そこに目標は置いていないんです。ただ、やっぱり自分が作品作りの中心にいることを自覚すると見えてくるものが違うな、とは思いました。作品に対する愛情の大きさも、もちろん」

 共演者には福山翔大、陣内孝則、林田麻里と福岡出身者が並ぶ。それぞれ、暗い過去を隠して大牟田にやってきた青年、何やら訳ありそうな車上生活者、生活のために夢を諦めたシングルマザーを演じる。

©2025「オオムタアツシの青春」製作委員会 配給:フリック

「とても心強かったです! スタッフにも福岡出身の方が多かったので、撮影中はいつも皆さんが醸し出す地元の空気感の中にいられたことが自分の自信にもつながりました。実際ロケのために3週間程度、大牟田に滞在していたので、あの独特な町の雰囲気を味わいながら撮影できたのもいい経験でした」

 物語のテーマは“再生”。亜美をはじめ人生につまずいた大人たちは、重い病気を抱えながらも前向きに生きる1人の少女と出会う。炭鉱の名残ある町で生まれ育った彼女がつなぐ縁とは。

「ものすごく特別じゃない。それほど大きな物語でもない。でも、きっと誰もが自分に重なるところがあって、人と人のつながりの大切さも伝わってくる。そうしたメッセージが押し付けがましくなく描かれた素敵な作品になったと思います」

かけいみわこ/1994年生まれ、東京都出身。2013年、リアリティ番組『テラスハウス』への出演で注目を浴びる。その後、雑誌モデル、俳優として活躍。本作が映画初主演となる。

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映画『オオムタアツシの青春』
9月26日全国公開
https://omuta-atsushi.com/

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