こうした経緯もあって、分譲マンションの販売価格は相場よりはるかに安い坪単価200万円台でスタートしたが、それでもモデルルームが公開され、事前案内が始まった2019年頃の来場者はまばらで、反応も芳しくなかった。2020年4月に緊急事態宣言が発令されたあとなど販売の現場はお通夜ムード一色だった。
この世のものとは思えない夕焼け
しかし、時を同じくして人々の関心は、コロナ禍で長い時間を過ごす「家」へと向かっていた。各国が国債を発行し、企業支援や国民への給付金を実施した結果、膨大なマネーが不動産や株式市場に流れることになる。
さらに晴海フラッグが一気に見直される奇跡が、五輪期間中(2021年7月23日~8月8日の17日間)に起きた。ベランダからの夕焼けだ。この世のものとは思えないほど美しい夕焼けが、連日東京湾を照らし、各国からやってきた1万人をこえる選手たちがその様子に驚嘆した。スマートフォンをかざし、次々とSNSにアップして、日本の自然の美しさを賞賛する言葉を添えた。それが全世界に発信され、名実ともに晴海フラッグが五輪レガシーとしてふさわしい評価を受け始めたのである。
五輪が終わり、翌月9月30日に緊急事態宣言が解除されるやモデルルームには人々が殺到した。10時の開場前から行列ができ、その列は100メートルを越え、北京語や広東語が飛び交った。すべての部屋が抽選となり、抽選会場に貼り出された表には、120倍、130倍という数字が並んだ。
本来、都民に安く提供されるはずだった「最後の一等地」はあれよあれよという間に、目端が利く「転売ヤー」や不動産投資家たちの戦場となった。「サラリーマンでも手が届く金額で都心のマンションを買える」はずだった最後のチャンスは、あっという間に庶民の目の前を通り過ぎていった。最終的に競争倍率は、650~1000倍へと駆け上がっていく。
晴海フラッグを射止めた人は、不動産のプロが多かった。私は4人の購入者に話を聞いたが、やはり全員がそうだった。
※本記事の全文(約8500字)は、月刊文藝春秋のウェブメディア「文藝春秋PLUS」と「文藝春秋」2025年10月号に掲載されています(吉松こころ「超高級物件に化けた晴海フラッグ」)。全文では、下記の内容をご覧いただけます。
・近隣の築地市場の再開発
・「国策は買い」
・千代田区の対策
・どんどん広がる東
■連載「欲望の不動産」
第1回 港区マンション業界ウラ話
第2回 東京に逃資する香港人
第3回 中国人が日本で爆買いする理由
第4回 沸騰するニセコ不動産市場
第5回 超高級物件に化けた晴海フラッグ <<今回

