1時間ほどの雨だったにもかかわらず、東京23区の南部を中心に都内で1628軒もの浸水が発生した2025年9月11日の豪雨(浸水軒数は9月26日時点の東京都のまとめ)。被害は目黒区から品川区にかけて地下を流れる立会川(たちあいがわ)の「流域」で大きかった。なぜなのか。もともと川が流れる場所は低くて水が集まりやすい。加えて、都市型と言われる洪水の特性と、下水道の対応能力の限界を顕著に示したのが今回の水害だった。現場を歩くと様々な被害と教訓が浮き彫りになった。

 全長7.41kmの立会川は、河口部の0.75kmを除いてコンクリートでふさがれている。暗渠(あんきょ)化された区間は河川法上の二級河川であるのに、用途は下水道の「立会川幹線」だ。

この下を「水」が流れている。地元住民も知らない“地下に埋まった川”の意外な水害リスクとは 撮影=葉上太郎

 都市部の雨は下水道が頼りだ。街はコンクリートとアスファルトに覆われていて、雨が流れ込む先は実質的に下水道しかない。あの日、立会川幹線はどのような状態だったのか。(全2回の2回目/最初から読む

ADVERTISEMENT

「危険水位」ではないのに浸水の被害

 東急目黒線の西小山駅は、すぐそばを立会道路が走る。暗渠化された立会川の上に造られた道路だ。同駅では線路が冠水して電車が運休し、近くの立会道路沿いでは多数の建物が浸水した。

線路が冠水した西小山駅

 その時、「地下河川」の様子を見た人はいない。ただ、推測できるデータはある。

 品川区立の「()(ばら)南公園」。西小山駅から500mほど立会道路を下った道路沿いにあり、東京都下水道局が地下に1万4000tの水を貯められる「荏原雨水調整池」を設けている。地下河川の立会川、すなわち下水道の立会川幹線が「満管」になり、地上にあふれるのを防ぐためだ。

立会道路沿いの「荏原南公園」。この下に東京都下水道局の「雨水調整池」がある
「荏原雨水調整池」の建物。左の「荏原南公園」の下に池がある

 この地点の「立会川」の水位は品川区がリアルタイムで公表している。それによると、9月11日午後1時にはたったの0.05mだったのが、午後2時半すぎから急上昇し、午後3時10分には3.61mになった。その後の20分間は同じ水準が続き、午後3時半から下がり始めた。「前が見えなくなるほどの雨が1時間ほど降った」という住民の話と合致する。

9月11日、荏原南公園の「立会川」水位

 地下河川にも普通の河川と同じく災害を警戒すべき水位が設けられていて、荏原南公園の地点では「注意水位」を超えたものの、「警戒水位」や「危険水位」には届かなかった。調整池の効果だろうか。

 それでも辺りでは浸水が発生した。これをどう考えるべきか。