汚水が海まで流れないワケ

 実は、暗渠が終わる手前に堰が設けられている。せき止められた汚水は、コンクリート管で造られた下水道幹線に流れ落ち、水処理センターへ向かう。つまり、立会川の河口部には流れ出ない。

立会川の最下流

 立会川幹線のような「合流式」の下水道は雨も合わせて流すので、豪雨時には暗渠を大量の雨水が流れて堰を越える。そうした時も水位が堰を越える前に汚水は水処理センターへ押し流されてしまう。「このため川にあふれた時にはかなり薄まっています。ほとんど雨と見なしてもいいほどです」と下水道局の担当者は説明する。

「1000年に1度」が日常に?

 あの日、立会川にふたをしていない開渠(かいきょ)部は、暗渠部から流れ出した大量の雨水のために氾濫した。濁流が橋にぶつかって道路にあふれる映像を見た人は多いのではあるまいか。

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 第1京浜国道(国道15号線)に架かる立会川橋の水位は、午後2時40分すぎから急上昇し、午後3時すぎに2.70mの「危険水位」を突破。午後3時半には3.83mに達して、3.70mの天端水位を超えた。

9月11日立会川橋の水位

 川のすぐ近くで商店を営む60代の女性は「目の前が見えなくなるほどの雨で、(ひょう)も降りました。道路を水が流れ始めたので、近くの置き場から()(のう)を運んで積みました。この土嚢がギリギリで屋内へ浸水するのを食い止めましたが、膝まで浸かった道路では車のエンジンが止まって立ち往生していました」と語る。

開渠部の近くにはいくつも土嚢置き場がある。急いで持ち帰って入口に積み、屋内への浸水をギリギリで防いだ人もいる

 こうした開渠部では、品川区が堤防の上に高さ30cmの青い鉄板を取り付けている。わずか30cm分だが、氾濫を抑えられるのだ。「あれがなければ大災害になっていました。でも、場所によっては鉄板がないところがあり、川がジャージャーあふれました」と商店の女性は話す。

開渠部の上流。潮が引くと水がほとんどなくなる。両側の堤防の上には高さ30cmの鉄板が取り付けられていた

「このような災害は、これから頻繁に起きると思いますよ」と女性は首をすくめる。「だって、全国各地で線状降水帯が発生しているじゃないですか。災害後に回ってきた都の職員も頭を抱えていました」。他にも多くの人が同じような予想をしていた。

 立会川上流の目黒区では1000年に1度の確率で発生する洪水のハザードマップを作成した時、「想定し得る最大の降雨」として「総雨量690mm、時間最大雨量153mm」の場合をシミュレーションした。今回は1時間ほどの雨だったので総雨量ははるかに及ばなかったが、133.5mmという時間雨量は想定に近かった。「1000年に1度」が日常になる時代が到来してしまったのか。