水圧でシャッターが破壊された

 立会道路より低くなっている宅地を歩いてみた。

「いやぁ、大変だったよ。作業場があるから急いで駆けつけたら通行止めになっていて……。自転車が流れて来るなどしていました」。工務店を経営する靏巻(つるまき)哲夫さん(77)が振り返る。

立会道路は西大井駅の横を通る。上を通過しているのは東海道新幹線

 水圧がすごかったようだ。シャッターが曲がって開かなくなり、一部を切断して力づくで開けた。「工作機械や建材は全部使えなくなりました。この年齢でまた機械をそろえられるだろうかと考えると気力が湧きません」と元気がない。

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靏巻さんの作業場ではシャッターが水圧で曲がっていた

 向かいの民家は床上浸水で、この家に住む女性は「テレビも、タンスも、冷蔵庫も、車もだめになり、洗濯機だけは日々の生活に困るので急いで買いました」と話す。ちょうど、電器店から洗濯機が配達されたところだった。

 被災から10日ほどしか経っていなかったので、近くではアパートの床板をはぎ、たまったままの水をバケツでくみ出している人もいた。

靏巻さんの作業場はシャッターが歪んで開かなくなり、一部を切断して開けた

 靏巻さんは「私が知っているだけで、ここでは8回目の水害」と言う。1999(平成11)年8月29日、1時間当たり77mmの降雨となった集中豪雨でも浸かった(都内では2009軒が浸水)。「あの時は近所の半地下の駐車場から車がプカプカ流れて来ました。そんな土地だから敷地を高くして家を建てる人もいます。ただ、最近は浸水がなかったので、知らずに住んでいる人もいるようです」と語る。自身は「もう水害は懲り懲り」と、標高20m以上の高台に家を建てている。

靏巻さんの作業場がある一帯は浸水被害が酷かった

 立会道路はそこから西大井駅の横を通り、一方通行の車道がJR京浜東北線の大井町駅へ向かう。

 次第にビルが高くなる。大井町駅の近くでは一部緑道になるものの、駅前の大通りに合流すると、暗渠はどこを通っているか分からなくなった。大井町駅の線路を越えると、区の有料駐輪場に「立会道路」の看板が立っていた。道路なのに駐輪場という不思議な空間だ。

大井町駅の下流側では、暗渠の上が品川区の有料駐輪場になる。「立会道路」の看板が立てられている

 先へ進む。池上通り(都道421号線)の下をくぐり、歩行者と自転車の専用道に入る。車やバイクは通れないが、「立会道路」の看板がある。

 この専用道の終点が暗渠の終わりだった。月見橋である。

上流から歩いた立会川の暗渠部もここで終わりだ

 そこから河口までの0.75km区間は「川らしい川」になる。ただし、暗渠の中からは透明な水がちょろちょろと流れ出ているだけだった。川にもほとんど水がなかった。

 あれっ? 疑問が生じる。立会川の暗渠部は下水道の幹線だ。排水を枝線から集めて流れる。汚水はどこへ行ったのか。