ポイントは“瞬間の雨量”
下水道局の担当者は「都は1時間に50mmの降雨に対応できるよう整備を進めてきました。下水管も幹線に集まる枝線は50mm対応です。ただ、下水管は1時間の雨量よりも、短時間にどれだけ降ったかに影響を受ける側面があります。わずか10分であっても激しい雨だと枝線が満管になり、道路の雨水舛から呑み込めない場合があるのです」と解説する。
あの日、品川区では1時間に約120mmの降雨があったとして気象庁が「記録的短時間大雨情報」を出した。「立会川」上流部の目黒区では1時間に133.5mmもの雨が降った地点もあった。そもそも50mm対応の下水道整備で対応できる雨量ではなかったが、瞬間の雨量はいかばかりだったか。枝線が満管になって道路の雨水舛から呑み込めなかったおそれもある。
下水道を逼迫させるのは雨量だけではない。「以前は降った雨の50%が下水道に流れ込むという想定でしたが、都市化の進展でますますコンクリートやアスファルトに覆われ、現在は80%が流れ込むと考えています」と前出の担当者は語る。
道路を流れる水量が多くなると雨水舛に入らず、路上を走り抜けてしまうこともある。
こうして降り方が激化し、下水に流れ込む割合も増大した。下水道が呑み込めないだけでなく、路上を流れてしまいかねないとなれば当然、災害は起きやすくなる。都は現在、1時間に75mmの降雨にも対応できるよう整備を進めているが、巨額の費用がかかるので、浸水しやすい地区からしか着手できないのが実情だ。
「流域」の被害を取材しながら、「下流」に向かってみよう。
「酒屋のトラックが立ち往生」
立会道路は車道と言っても、川にふたをしただけだから広くはない。車は一方通行になっている。
昭和医大病院の横を通る。片側2車線の中原街道(都道2号線)を横切ったら、暗渠の上は公園になった。遊具がある区画、ボランティアが花壇の世話をしている区間、自転車置き場などがあり、旗の台駅の近くで東急池上線をくぐる。その先も公園が続き、カエルの像で親しまれている通称「カエル公園」がある。
これらの一帯も浸水した。
地元に住む桜沢勇治さん(76)は「50cmぐらい浸かった場所もあり、酒屋のトラックが立ち往生して10人ほどで押しました。浸水したマンションもあります」と話す。
桜沢さんは驚いたことがある。「雨水舛がゴミで覆われ、下水に流れなくなっているのではないかという話になり、皆で掃除をしたら、一気に水が引いていきました。近くには4カ所に雨水舛があり、ゴミは45リットル入りの袋がいっぱいになるほどありました。雨水舛を機能させるだけで地域の運命が変わるのだと実感しました」と語る。






