スパイはどのようにして、日本人のターゲットに近づくのか。元警視庁公安部外事課の勝丸円覚さんは「ハニートラップを仕掛けてくるのは、映画のような“絶世の美女”ではない。例えば、中国では通訳が日本人を罠にはめるケースがある」という――。(第3回)
※本稿は、勝丸円覚『スパイは日本の「何を」狙っているのか』(青春出版社)の一部を再編集したものです。
“手の届きそうな女性”がハニートラップをしかけてくる
中国には非常に巧妙な手口が存在します。それは、中国に出張した日本人ビジネスマンに対して“通訳の女性”が仕掛けるパターンです。顧問先の企業でも、実際にこうしたケースがありました。
プロジェクトで中国に赴いた日本人メンバーに対し、現地側が用意するのは「手の届きそうなレベルの美人」の通訳です。
あまりに美しすぎると警戒されるため、逆に“親しみを持てる魅力的な女性”を配置するのです。そして、プロジェクトの最後には、お酒を酌み交わす「打ち上げ」が用意され、自然な流れで、「じゃあ、あなたの部屋で軽く二次会でも」と提案されます。
部屋で待っていると、来るはずだった他のスタッフは「体調不良で来られなかった」とされ、結局、その女性1人が現れる。そして、何気なく撮った記念写真に、ベッドやバスルームの入り口が映り込んでいたり、あるいは隠しカメラでの動画撮影が行われていたり──。後日、それらが“証拠”として使われ、「何もなかった」と主張しても、もはや誰にも信用されない状況に追い込まれてしまいます。
「中国での行動すべて」が監視されている
これは実際にあったケースであり、スパイ組織は「身体的な関係があったかどうか」ではなく、「そう思わせる証拠を作る」ことを目的として動いています。
この手口は、男性だけでなく女性にも当てはまります。たとえば、既婚女性が出張先で感じのいい男性通訳と記念写真を撮られ、それを基に「不倫の証拠」としてゆすられるケースもあり得ます。これは日本国内でも同様で、写真1枚でも社会的信用を崩すには十分なのです。
