土を甦らせたいという思い
《アレンは元々IT産業の高給取りだったが、人生に疑問を感じて脱サラ。都市の生ゴミを大量に集めて堆肥にし、それを使って土壌を改良すればゴミ問題も解決できる、という理想に燃えて転身した。町の飲食店や青果業者などから大量の生ゴミを集め、大きな穴に集めて発酵させる様子は圧巻だ。しかし、強烈な悪臭が発生。ともに作業を行うアレンの妻が、「大便の臭いが髪について洗っても消えない」と嘆くほどだ。》
イェン 元々ハイテク産業の領域にいた人がどうしてこういうことをやっているんだろう、と非常に驚きを感じ、彼を撮ることにしました。するとアレンが、「私を撮るなら、私の心の師匠である人がいるから、その人を一緒に撮った方がいい」と勧めたんです。それがアンホーさんでした。
初めて彼のナツメの果樹園を訪ねた時、そこで一緒に育てられていたミニトマトを食べたら、人生で一番美味しかった。そういう作物や果樹園に衝撃を覚えて、彼も撮ることにしたんです。2人には共通点があって、それは土を作ることに対して2人ともとても熱心で、情熱を注いでいるということです。
リム・カーワイ(以下、リム) 2人の土を作ることに対する情熱がすごく伝わってきました。
西村 一方で、土に対する向き合い方、背景にある考え方には違いがあるなという印象でした。若いアレンは、ゴミ問題とか環境に対する考え方、すごく大きな言葉で自分のことを説明していました。アンホーさんの方は、自分も自然の一部なんだという、道教の考え方に近いものを感じました。
イェン アンホーさんは台湾では非常に早い時期から有機農業に取り組んでいた人ですが、村の大多数の人たちからは否定されていました。畑に雑草が生えれば取るのが当たり前の台湾で、草を育てて土を耕そうという彼のやり方は、受け入れられなかったんです。
アレンも、彼が周囲から否定される中でも自分のやり方を信じ、信念が正しかったことを結果で示したい。アレンの夢は、都市のゴミを堆肥に変え、土に返すことですが、彼はアンホーさんから「夢を信じる」ことを学び、それを支えにしていたんですね。やり方は違いますが、2人の土に対する魂は共通していると思います。

