既に自己表現欲は満たされている

 僕は30代でヒット作を何冊か出せたので、既に自己顕示欲や自己表現欲は満たされてるんです。ぶっちゃけ、もう定年退職したい気分ですね。生きていくのに困らないだけのお金があれば、それで十分。「40歳は心の定年」って言ってる人がいますが、その気持ちはよくわかります。

 人は何歳くらいで一番いい仕事をするのか、考えたことはありますか? 職種にもよりますが、文化系にとってインプットの量が稼げてアウトプットの質が一番高い時期って、やっぱり30代から40代の頭までという気がするんです。周囲の人たちを見ていると。

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 これが編集者の場合、それだけじゃない。自分がいいと思ってるものと、世の中がいいと思ってるものが、自然とぴったり合っている時期が、30代の10年だと思うんですよ。これってすごく大きい。

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 この時期を過ぎると、いちいち補正が必要になるんです。自分が直感的に「いいな」と思ってはいないものが、社会のメインストリームだったり、話題の中心だったり、経済を動かしていたりする。僕の場合はSNSが顕著で、Twitter(現X)が出始めたときは直感的に「いいな」「自分でもやってみたい、色々試してみたい」と思ったけど、TikTokはそうじゃなかったんです。

 30代は、蓄積した知見の量と、思考や発想力のキレと、フットワークやコネクションや組織内でのポジションのバランスが、一番取れている時期。「黄金の10年」とでもいうのかな。

「黄金の10年」が子育て期と丸かぶり

 子育てにリソースを取られる時期というのが、その「黄金の10年」に丸々かぶっちゃってる。かぶりを避けるには、子供を作る時期を思い切り早めるか、思い切り遅くするしかない。だとすると、仕事を邪魔しない子作り適齢期は、たとえば「23歳or47歳」といった二択になります。23歳で子供ができれば、小学校入学で29歳か30歳。僕は30歳手前で編集者になったわけですが、それだとちょうどいい。

 ずっと前から、一部の女性はこういう発想でライフプランを組んでますよね。早めに結婚してすぐ子供を作り、ビジネスパーソンとして一番脂が乗ってくるであろう30代に、子育ての一番大変な時期がかぶらないようにする。

 でも、男で前もってこれに気づけている人って、僕の世代にはほとんどいないんじゃないですか? まさか、子育てがここまで仕事を邪魔するとは予想していませんでした。というか文化系男子の多くが、自分がいつ「ベストパフォーマンスを出せなくなるか」を事前に予想できていない。僕もそのひとりでした。

 男性でも、フィジカル(肉体)を売り物にするアスリートの方々はちゃんと意識していますし、意識せざるを得ません。自分のフィジカルのピーク時期から逆算して、人生設計をしなきゃいけないから。本来は文化系男子も、能力のピークから逆算して人生設計をするべきですが、フィジカルの衰えに比べて「知的生産活動がいつから衰え始めるか」は、なかなか定説がない。