なぜ東京メトロは「都市鉄道」なのにワンマン運転を実現できたのか
すべてのプラットホームに天井までのホームドアを設置し、運転席から見える位置にカラーモニターを設置して、プラットホーム全体を見通せるようにした。車両の状態や異常発生箇所をリアルタイムで表示して、故障時の対応も迅速化。従来は車掌が目視して指令所と連絡していたけれども、運転士自ら指令所に連絡できるようになった。モニターにはドア開閉状態も表示する。
鉄道車両は側面に赤いランプが点いており、ドアが開いているときは点灯、ドアが閉じていれば消灯だ。車掌は赤ランプがすべて消えたとき「側灯滅」と指さし確認して運転士に伝えるが、南北線では、これが運転席のモニターで確認できる。冒頭で丸ノ内線の運転士が「鞄を引いてください」とアナウンスできた理由は、同様のシステムを導入していたからだ。
乗降ドアの開閉スイッチは、乗務員扉の脇だけではなく、運転席にも設置。車内放送は通常の駅案内だけではなく、事故などの異常時放送、運転状況放送、協力要請放送、旅客負傷防止放送、各種運動啓蒙放送などが組み込まれ、運転士が適宜選択すれば放送される。
運転士の業務が増えるため、負荷を軽減するためにATO(Automatic Train Operation)も装備した。いわゆる「自動運転」を可能にする装置である。あらかじめ駅間の運転パターンが登録してあり、最適な加速、減速を自動で行う。運転士は発車ボタンを押すだけである。
ワンマン運転で消える「車掌」本来の役割は?
乗客からすると、車掌の業務はドア開閉、車内放送、乗客の運賃精算が主に見える。しかし、車掌にとってもっとも重要な業務は「列車防護」だ。鉄道運行の省令でも、実は「車掌」という言葉はなく「列車防護員」と記述され、原則として列車は運転士と列車防護員が乗務すると定められている。
列車防護とは、事故が起きたとき、二次的な事故が起こらないように対処する業務である。たとえば「防護発報」。これは列車が脱線など危険な状態にある場合に緊急無線を発信し、その周囲で受信した列車を停止させるものだ。脱線した列車にほかの列車が衝突する事故を防ぐ。これは車掌より運転士が操作するものだが、列車が停止した場合、念のため後続列車に危険を知らせる必要があり、そちらは車掌の役目だった。南北線では最前部の運転士の操作により、最後部の車両のヘッドライトを点滅させている。



