タレントの体重や見た目の変化の話題は、今も昔もPVを稼ぐ鉄板コンテンツだ。その振り幅が大きければ大きいほどいい。そう考えると、姉さんの着眼点はそれほど的が外れているわけではない。姉さんは言った。

「大きく注目されるほどの話題になるためには、ちょっと太っただけじゃダメ。まずはしっかり太ることが絶対だ」

 やるべきことを見失い、やることもわからず人生を放浪して不安で仕方がない私に、「こうしろ」という指示はダイレクトに反応した。

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「そうか、私に残された道は太ることなんだ」

 バカバカしいやり取りに見えるかもしれないが、恐怖心を煽り過去や現状の自分を否定させるのも、洗脳を進める方法だ。そして私は次にやるべきことが明確になったとばかりにスーパーで食材を買い込んだ。

 これは私の統計だが、人間、痩せるよりも太るほうが難しい。太るのは“才能”であり、遺伝子レベルの話だ。外国人の大柄な体に、「どんなに食べてもああはなれない」と思った人は多いと思う。いつの間にか多少脂肪を蓄えることはあっても、アスリートや俳優を除いて、意識的に激太りしようとする人はなかなかいない。

©山元茂樹/文藝春秋

 姉さんは、「とりあえず5kgは太りたいよね」と軽く言った。

 5kg程度なら容易い。単純に食べる量を増やせば、それぐらいはあっという間だ。私はグラドル時代に“食べない”生活を強いられていたこともあって、「食べていい」というのはむしろご褒美にも思えた。

「やっと食べていいんだ!」

 ピザや菓子パン、アイス、ケーキなど、それまでは「NGメニュー」として節制していたものを好きなだけ好きなように食べ、思った通り5kg増は楽勝だった。着実に増えていく体重計の数値はゲームみたいだった。しかし姉さんの要求はそれで終わらなかった。

「姉さん、5kg太ったよ」

「いや~、5kgじゃ全然足りないね。話題になるためにはもっと太った方がいい。もうあと5kg増やそうか」

 そうはいっても急に5kg以上増えるものではない。すぐにたくさん食べられるようにもならない。さすがに戸惑った。

 5kgならと思って始めたのに、いきなりプラス5kg。それって10kgだよね? 無理だよ。そんなに太れないよ。

 どうしよう……。これ以上太らなきゃダメなの? どうやって?