たるんでゆく肉体
体重が増えれば「頑張ってんじゃん」と褒められ、増えていなければ「なんでできないの?」と詰め寄られたうえ、「いいんだね、このまま人生終わっても?」と脅された。
姉さんの説教と脅しを自動再生のように延々と聞かされる私の頭の中はカラッポと化し、代わりに姉さんの指示でいっぱいいっぱいになっていった。
野球部やシンクロナイズドスイミングの選手は体を大きくしたり、激しい練習で痩せたりしないようにたくさん食べることも練習の一部で、選手たちは胃薬を飲みながら食べものを流し込むという話を聞いたことがある。
私も胃薬が手放せなかったが、意識としてはアスリートとは真逆も真逆、正反対。シンプルに体重を増やすだけが目的なので筋肉が増えるわけでもなく、四六時中もたれる胃を薬でなだめながら、肉体はブヨブヨとたるんでゆく。
ずっと具合が悪いけど、具合が悪いと食べられない。体重が減るとまた姉さんに怒られる。怒られると、「嫌われちゃう、嫌われたくない」という気持ちが湧いてくる。嫌われたくないから、食べる。食べたら褒められるから、朝から晩まで、すごい量を食べ続ける。もっと具合が悪くなる……。無限ループ。
指示されたことには素直に従う性格なので、姉さんの「常にそばに食べ物を置いておくように」という指導を忠実に守り、手が伸びる場所にスナック菓子の袋を常備した。激太りを目指してから1ヶ月経ち、2ヶ月経った頃には、10kg増に手が届きそうなぐらいに体重が増えていた。
「姉さん」のディレクション
「そろそろ、太った姿をお披露目しましょう」
2009年3月に一旦「退所」報告をしたあと、同年11 月に新しいブログを始めたのも、姉さんの計画だった。デブ道を歩み始めて2ヶ月、私の体重は7kg増えていたけれど、身長がある分、それで「デブ」と言うには少し無理がある。
姉さんの脳内では、11月までに私は力士レベルになっているはずだったらしい。つまりお披露目時期が先に決まっていただけで、なかなか巨漢にならない私の姿を見てはため息をつき、「全然物足りないじゃん」と眉間にシワを寄せるばかり。
それでも何らかの形で“小阪由佳に異変が起きている”ということは露出したほうがいいということで、服の中にタオルを詰め込んでお腹を膨らませ、顎は限界まで引いて二重顎を作り、目は細めて肉に埋もれたように見せかけた。全部を姉さんにディレクションされて、私は姉さんの言いなりだった。注目されるんだったら、何でもいい。
