監視とスパルタ

 あれだけ、少しでも食べたらすぐに増えることに悩んでいたのに、太れと言われると途端に難しい。事務所を辞めてからヒマを持て余していた私は、ほぼ毎日姉さんの家に通い、掃除や洗濯といった家事や事務作業をタダで手伝うようになっていた。明確に契約書を交わしたわけではないが、家事手伝いのようなものだ。

 姉さんからは常に「もっと食べろ」と言われ続け、「前よりも痩せたんじゃないか?」「太り方が足りない」といった細かいボディチェックが入った。いついかなる時も私が何かもぐもぐしていないと、姉さんは「なんで今、口のなか何も入ってないの?」と不機嫌になった。

 姉さんが怒るのは、私の体重の変化が見えない時。

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 この頃から私に対する姉さんの口調は激しくなっていった。

「わかってんのかな? 私はあんたが注目してもらえるために細かく段取りを組んであげてるんだよ? 太れって言ってるんだから、さっさと太れよ。努力が足りないんだよ」

©山元茂樹/文藝春秋

 例えばファミリーレストランへ行ったとする。姉さんは注意深く私が注文するメニューを見張っていて、ガッツリ頼まないと気が済まない。シンプルなパスタや和風のあっさりした定食はもってのほか。私はその時食べたいものとは無関係に、トンカツやチーズ入りハンバーグやグラタンのような脂っこいものを頼まなくてはいけなかった。

 そもそも、姉さんがよく食べる。ハンバーグとライスにパスタとサラダをつけ、飲み物はクリームソーダといった具合。場合によってはパフェも食べる。ファミレスからの帰り道には、コンビニに寄ってお菓子やアイスクリームを買うこともよくあった。

 姉さんと会うのは基本的に彼女の家だった。私は毎回お菓子を持っていかないといけなかったし、家では「これも食べな、あれも食べな」といろんなお菓子をとめどないわんこそばのように振る舞われる。安上がりでカロリーの高いスナック菓子が多く、わんこスナック状態だ。

 飲み物もお茶は“NG”。砂糖たっぷりのサイダーやコーラにしろと言う。私は炭酸が苦手だから、オレンジジュースやミルクティーで許してもらっていたけど、とにかく最重要事項は糖分と脂質。胃の調子を悪くして食べないでいると、「最近サボってない?」と体重計に乗せられる。姉さんの目の前で体重をチェックされ、「まだ先週から太ってないじゃん!」と監視される。スパルタだった。