意地悪のヒートアップ

 基本的に姉さんが開催するホームパーティーの時は、姉さんが本当にたくさんのメニューを用意した。調理師免許をもつほど料理が得意な姉さんは、チーズやカナッペのようなおつまみ系からローストビーフ、パスタ、ご飯ものまで、料理の腕はたしかだった。

 姉さんは自分が食べるのもだが、他人が「おいしい、おいしい」と言って食べている姿を見るのが好きなタイプだ。だって、自己肯定感が上がるから。「料理上手ですね」と間違いなく言ってもらえるから。そして、いつも片付けるのは「奴隷」の私の仕事だった。

 パーティーでの私は、姉さんに「奴隷」として紹介される以外に、「料理が残らないよう、お前が全部食べろ」というミッションを課されていた。まるで大食い企画だが、姉さんは途中から男の子と喋るのに熱中してくれるから、私にも多少監視下から外れる“自由時間”が生まれ、食べきれないものは少しずつ、バレないように捨てていた。

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©山元茂樹/文藝春秋

 すでに太る能力がない私に、姉さんはわかりやすいイジメを繰り出し、その露骨さはピークに達しようとしていた。それまでは、飴と鞭を使い分けていた。太れとか、あれをやっておけといった命令があっても、必ず「応援しているから、厳しく言うんだからね」という言葉があった。

 それが、絵に描いたような幼稚な意地悪がヒートアップするようになったのだ。

 夜に「アイス買ってきて」と突然言い出す。機嫌を損ねないように急いで買って戻ってくると、姉さんは「やっぱりいらない」と言って、その場でポイッとゴミ箱に捨ててしまう。

 そういった「○○を買ってきて」というパシリ(彼女の目線で言えば奴隷)みたいなことはそれまでに何度もあったが、そのレベルが酷くなった。悪化する時は、誰かといる時のことが多かった。

「こいつ私の奴隷だから、頼めばなんでもやるんだよね」

「なんか欲しいものあったらこいつに頼んでいいよ」

 という調子で、従順な私を見せびらかすことで、自分のポジションをアピールしたかったのか。あの時の姉さんの心理は未だにわからない。当時の私は、そんなことをすればするほど、周りが姉さんに対して引いていっている姿を見るくらいの冷静さは戻ってきていた。だから、反発は出来ずとも、こんなことしてもイメージが悪くなるだけなのに……と内心思っていた。それでも、恐怖心が強く、嫌味や悪口を言われるのが辛くて、自分を守るため、淡々と言うことを聞いていた理由は、とにかくもう面倒だったから従っていた。いつ怒るかもしれない姉さんに怯えていた。