トイレで切り落とした髪

 ある日、姉さんの命令でべリーショートにされた私の髪はボサボサに伸びていたことに気づいた。奴隷扱いされながらも、ようやく自分の見た目に向き合い始めていた私は、久しぶりに自力で美容院へ行った。きれいに整え、当時流行りのレイヤーを入れてもらうと、心は少し明るくなった。

“洗脳”時代の小阪さん 本人提供

 美容室から帰った夕方、姉さんに渋谷の居酒屋に呼び出された。向かうと、姉さんが最近お気に入りの男性と友人の女性がいた。女性は、切りたてホヤホヤの私の髪を見るなり、「すごくいいね!」と手放しで褒めてくれた。

 切ってよかったな、と私が少し照れながらも嬉しそうにする横で、姉さんは私を睨みつけ、「ねえ、やばいもんもってこないで」と言い放ち、おしぼりを投げつけた。姉さん曰く、髪の毛を切った私に何らかの霊がついているとか。髪に霊が付いているから、その髪型は「失敗」だと断言した。もはや占い師なのか霊媒師なのかわからなくなっていた。

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 髪型に文句を言うだけでなく、まさか霊を根拠に、否定してくるとは。そんなに私が褒められるのがイヤなのか……。

 目頭がカーっと熱くなった私は思わず立ち上がり、店員さんに「買った服のタグを切りたい」と嘘をついてハサミを借りるとそのままトイレに駆け込んだ。トイレの鏡の前に仁王立ちになると、そのままハサミを持ち直し、その日に綺麗に切ってもらった髪の毛をまとめて手で掴んでは、ザクッと一気に、間髪入れず切り落とした。さっきまでの艶っぽい髪の毛は私から離れ、流行りのレイヤーは無くなり、一瞬にしておかっぱ頭になった。惨めだった。尽くしている人から褒められたいのに、ただ普通に生きたいだけなのに、何をやっても否定される。髪の毛すら、私が自由にできる部分は残されていない。

 洗面台に散乱した髪の毛を素手で拾い上げながら、悔しくて悲しくて腹が立って、いろんな感情が混ざって、鏡に映った自分の姿を見て声を殺しながら大声で叫んだ。

「ゔゔゔ……もう……こんな思いしたくない」

次の記事に続く 「『さしすせそ』がまったく言えなくなった」元グラドル・小阪由佳(40)が明かす、知人女性から受けた“洗脳”の後遺症

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