「殺処分ゼロ」が相次ぐ裏側では…

近年、全国的に保健所に収容される犬猫の数は減少し、都市部を中心に殺処分ゼロを達成する自治体がいくつも出てきています。

令和5年度、全国の保健所や動物愛護センターに飼い主から所有権放棄された犬猫の数は1万588頭、飼い主不明の犬猫を含めた収容総数は4万4576頭でした。そのうち、殺処分数は9017頭で、ついに1万頭を下回りました。50万頭が殺処分されていた20年前から状況は大きく変わりました。

殺処分ゼロの自治体が出はじめたのは2010年代で、先行して犬の殺処分ゼロが実現していきました。2020年代には猫を含めた殺処分ゼロを達成する都市も出始めています。

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殺処分の大幅な減少や殺処分ゼロは、もちろん歓迎すべきことです。しかし、問題はそう簡単ではありません。殺処分される犬猫が減ると同時に、保護される犬猫も減ったかというとそうではありません。正確な統計はありませんが、保護団体にいる保護犬猫が減っている様子はありません。

保健所をスルーするとカウントされない

保護団体に保護される犬猫が減少しない理由は主にふたつあります。

ひとつ目は、殺処分ゼロに向けて、譲渡の難しい犬猫の引き受けと、長期保護が多くなっている点です。殺処分ゼロに到達していなかった10年ほど前まで、保護団体は比較的譲渡されやすい犬猫を優先的に保護していました。

しかし、殺処分ゼロを達成しようという社会的なムーブメントが盛り上がるにつれて、譲渡されにくい高齢犬猫や、病気のある犬猫、攻撃行動などの問題行動がある犬猫の引き受けが増えました。当然新しい飼い主は見つかりにくいため、長期間保護団体にいることになります。

保護犬猫が減っていないふたつ目の理由は、飼い主から保護団体への直接的な保護依頼が増えていることです。「殺処分ゼロ」が一般化したことで、「なるべく殺処分を避ける対応をしなければ」という動物愛護意識は以前よりも浸透しています。そのため、飼えなくなった飼い主や周囲の人が「保健所に連絡すると殺処分される」と考え、直接保護団体に保護を依頼するケースが増えました。