犬が犬を咬み殺す事件も起きている

保護活動は「命を救いたい」という思いだけでは成立しません。命を救うためにかかるお金、人手、設備を調達する経営能力が必要です。

自分の目と手の届く範囲、たとえば、2〜3頭程度の保護や、1胎の子犬子猫たちの保護であれば、ボランティアの領域で実施可能でしょう。しかし、そうした個人のボランティア活動の域を超えた数十頭の保護活動を経営能力なしに行うことは、当人も動物たちも苦しめることになりかねません。

殺処分ゼロの弊害は、行政の施設でも発生しています。過密飼育から犬同士の咬傷(こうしょう)事故となり、咬まれた犬が死亡するケースも報告されています。

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首長などが政策として殺処分ゼロを掲げる自治体は少なくありませんが、収容した犬猫すべてを殺処分しないということは、それだけ犬猫が施設に溜まってしまうことを意味します。

譲渡が進めば良いのですが、そう簡単ではありません。行政の施設では、大人の猫や、野犬出身の中型以上の人馴れしていない犬が、譲渡されずに残ってしまうケースが特に多いです。また、人がさわれない、職員でも散歩にいけないといった問題行動のある犬となると、保護団体に譲渡することもできず、行政の施設にとどまってしまうこともあります。

攻撃行動のある犬については、一般家庭に譲渡してもその後に咬傷事故が発生する可能性も否定できないため、譲渡についてはかなり慎重になりますし、安易な譲渡はできません。

「危険な犬をどうすれば…」現場の戸惑い

先日、ある行政機関の職員から以下のような相談が寄せられました。

曰く、「全県的に殺処分ゼロを目指す流れとなった。これからは強度の攻撃行動など譲渡が難しく危険を伴う犬についても殺処分するのではなく、治療し譲渡することを目指すこととなる。収容数自体は減っており、新設の施設もあるため、すぐに収容限界を迎えるわけではないが、危険な犬を治療するノウハウは当県の職員にはない。果たして現実的に実施できるのか不安である」とのことでした。