「その後、どう?」

「手術しました」

「そう。どうだった?」

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 というような会話があり、まあ、他に話すこともないので、手術で痛かったという話をした。そんなに深刻に話したわけではなく、ごく軽く、世間話のような感じで。

 ところが、そのおじさんが、急にぽろぽろと涙をこぼしはじめたのだ。

 これには驚いた。何事かと思った。

 でも、思い出した。このおじさんは、アルコール依存症でもあり、そのせいで麻酔がうまく効かなくて、やはりかなり痛かったのだ。当時、そんな話をしていた。私もそれを聞いていたが、お酒を飲みすぎるからそんなことになるんだと、あまり同情していなかった。なにしろ、自分でも「酒浸り」と自慢気に言っていたくらいだから。

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ぽろぽろと涙がこぼれ、2人でおいおいと泣いた

 でも、私の目からも急にぽろぽろと涙がこぼれた。えっ、と自分でも驚いた。

 それまでは泣くことができなかったのだ。泣きたいとも思っていなかった。でも、初めて泣けた。

 私にはわかったのだ。「この人は本当にあの痛みをわかっている」と。おじさんのほうも同じだっただろう。

 2人でおいおいと泣いた。

 はたから見ると、ずいぶん異様な光景だったと思う。

 このことがあってから、私の気持ちはずいぶん晴れた。正体不明のもやもやが、すっかり消え失せた。

 そのおじさんが痛みを理解してくれたからといって、何の意味もない。重要な相手でもない。先にも書いたように、まるで気が合わなかったし、普通に世間で出会っていたら、知り合いにさえならなかっただろう。

 それでも、私は今もときどき、そのおじさんのことを思い出す。孤独を感じたときに。なぜ、あんなおじさんが自分の心の支えに? と不思議な気にもなるが、私にとってかけがえのない大切な人だ。きっと、おじさんのほうでも同じだろう。気に入らない若僧だったなあと思いながら、でも、孤独を感じたときには支えにしてくれていると、私は確信している。

 もう会うことはないだろう。でも、お互いの心の中にいる。