〈あらすじ〉
スイスの山中にある小さな町。バーバラ(イヴ・コノリー)は、亡き母が遺した“喋る刺繍”の店を守りながら孤独に暮らしているが、店は流行らず倒産寸前。そんなある日、山中を車で進んでいると、不審な事故現場に遭遇する。道に2人の男が血まみれで倒れており、周囲には白い粉が飛び出した紙袋、2丁の拳銃、大金が入っていそうなアタッシュケース。どうやら麻薬取引でトラブルが起きたようだが――。
その瞬間、バーバラの頭に3つの選択肢が浮かぶ。今なら“完全犯罪”が可能な状況。傾いた店を守るため金を横取りしようか。いや、人として正しい道を選んで“通報”をすべきか。はたまた、そのまま車を直進させ、“見て見ぬふり”をするのか。バーバラが自身の綻んだ人生を縫い直すためにとった選択とは。
〈見どころ〉
3つの選択肢の結果を順番に描いていく構成。その試行錯誤から目が離せない。また、たびたび絶体絶命の状況に陥るバーバラが、裁縫箱1つでどうそれを切り抜けるのか。卓越した裁縫技に注目!
針と糸で己の人生を縫い直せるか!?
突然ある犯罪に巻き込まれたお針子が、自身の人生をつかむべく針と糸とで立ち向かうユニークな“裁縫”クライムサスペンス。2000年生まれの新鋭監督による長編デビュー作。同名の短編を『ファーゴ』のジョエル・コーエン監督の勧めでセルフリメイクした。
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芝山幹郎(翻訳家)
★★★★☆針と糸の連動が、これほどリズミカルに映画を弾ませるとは思わなかった。若手監督特有の客気やムラは散見されるものの、奇想の愛好や、変人怪人の描写は付け焼刃ではない。観客との先手争いに負けていないのも頼もしい。
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斎藤綾子(作家)
★★★★☆冒頭の不幸な映像にハラハラさせられるも、切羽詰まった展開が笑える。顔馴染みたちの行動が救いになるのか墓穴を掘るのか。不運で最悪な未来がわかれば素通り出来る? 糸の動きに恐怖を感じる貴方は神経が侵されるかも。
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森直人(映画評論家)
★★★★☆裁縫道具を使ったポップな仕掛けが愉しい。選択別の運命パターンが枝分かれしていく『ラン・ローラ・ラン』型の作劇に、自立や解放の主題を編み込む。ありがちなコーエン兄弟やタランティーノの亜流とは一線を画す出来。
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洞口依子(女優)
★★★★☆拳銃とお針子が相性抜群! 長閑なスイス山間を背景にヒロインに降りかかる出来事は針の穴に糸を通す緊張感!「自分の冒険を選ぶ」羅生門形式な構造。『スイス・アーミー・マン』をみた時の衝撃にも似た映画体験を愉しむ。
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今月のゲスト
岡本真帆(歌人)★★★★★観たことのないものが観たくて映画を観ている私は、大興奮。針と糸だけで、こんなことができるなんて……! 冒頭で、3つの選択の結末がちらつく、型破りな構成もいい。気持ちよく裏切られ続けました。とても良かった!
おかもとまほ/1989年生まれ。未来短歌会「陸から海へ」出身。現在、会社員として働くかたわら、東京と高知の二拠点生活を送りながら、歌人、作家として活躍中。歌集に『水上バス浅草行き』『あかるい花束』、エッセイ集に『落雷と祝福』がある。
- 最高!今すぐ劇場へ!★★★★★
- おすすめできます♪★★★★☆
- 見て損はない。★★★☆☆
- 私にはハマりませんでした。★★☆☆☆
- うーん……。★☆☆☆☆
©Sew Torn, LLC 配給:シンカ
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『世界一不運なお針子の人生最悪な1日』
監督:フレディ・マクドナルド
2024年/アメリカ、スイス/原題:Sew Torn/100分
12月19日(金)~
ヒューマントラストシネマ有楽町、新宿シネマカリテほか全国公開
https://synca.jp/ohariko/




