夜通しで、血なまぐさい遺体と向き合い続ける
例えば、列車に飛び込んでその場で亡くなりすぐに通報されたのであれば、つい先ほどまで生きていたわけなので、直腸内温度は生きている時と同じ37℃程度はあるはずです。しかし、もし直腸内温度が30℃程度しかない場合はどうでしょう?
早期死体現象によって遺体の体温は徐々に下がっていきます。春や秋の平均的な環境では、体温は1時間あたり約0.5℃降下すると想定します(ただし、体格・着衣・外気温・降雨などによる濡れ具合・脳の出血の有無など、諸条件によって変化します)。すると、直腸内温度が30℃だった場合、特別な体温急降下の要因がなければ直前に死亡したとは考えにくいのです。
平均的な環境下での計算では37℃-30℃=7℃の体温降下なので、7℃÷0.5℃(1時間あたりの平均降下分)=約14時間。つまり、直腸内温度測定時から約14時間も前に死亡日時の推定が遡り、死後約半日経過した遺体が何者かによって線路上に置かれた可能性も出てくるのです。
さて、遺体を署に搬送して検視を始めます。速度が出ている列車に轢かれると、遺体がぐるぐる巻きになっていたり骨や内臓や肉の断片が増えたりするので、人間の体の形に戻すのも一苦労です。遺体の外表や損傷などを確認していきます。先ほどまで生きていたわけなので、まだ生温かく血なまぐささを感じます。寝ずに朝の4時を迎えたところですが、警察官は寝ることを最優先にできません。
検視が終わり、環境捜査の結果からも自殺とわかれば、次は自殺動機の推定です。
