イタリア人の夫との別居婚を公表している漫画家のヤマザキマリさん。「家族であっても、それぞれが自分の好奇心を満たし、自分の世界を広げることは大事なこと」と考えるヤマザキさんに、夫との出会いから現在の生活まで聞いた。
『週刊文春WOMAN創刊7周年記念号』から一部を抜粋し、掲載する。
「もしかして離婚されるんですか」否定的に捉えられている“別居婚”
本誌に連載中のエッセイで、夫と現在は一緒に暮らしていないという話に触れたが、読んだ人から「ヤマザキさん、ご主人とは別居されているんですか。何かあったんですか?」「別居婚って書いてあったんですが、もしかして離婚されるんですか」といった質問を受けるようになった。
SNS上でも「別居婚なんてうまくいかない、そのうち別れる」という書き込みがされていた。どうやら“別居婚”という言葉は、否定的に捉えられているようだ。
イタリア人の夫も私もそれぞれイタリアと日本でなければできない仕事に携わっているので、やむを得ず”別居婚”状況なのだと説明すると「寂しいですね、ご夫婦なのに離れ離れなんて」と反応する人もいる。夫婦として一緒になったからには、常に同じ屋根の下で暮らし、相互に協力し合いながら子供を育て、どんな齟齬があっても乗り越えて死ぬまで寄り添う、というあり方が結婚の絶対的フォーマットと理解している人が多いのだろう。
世界中を短時間で移動することが可能となり、夢見る未来の象徴だったテレビ電話も当たり前となり、仕事の種類も多様化した現代の人間の生き方を踏まえると、この結婚のフォーマットに固執するのはどうなんだろう、と思う。
「常に一緒にいることが結婚の優先順位じゃないから」
この秋、サンフランシスコのデ・ヤング美術館で開催中(2026年1月25日まで)の“ART OF MANGA”のオープニングに招待された。漫画展のキュレーターを務めたニコル・クーリッジ・ルマニエールさん(美術史家、イースト・アングリア大学教授、セインズベリー日本藝術研究所長)は、2019年にかの大英博物館で“The Citi exhibition Manga”なる大漫画展を仕掛けた人だ。
久しぶりに会ったニコルに誘われて、彼女の従姉妹を訪ねた。ウォール・ストリート・ジャーナルの創設者を祖先に持ち、ニューヨークの大金持ちの家に生まれ育った生粋のお嬢様である従姉妹は、家族が買収したネヴァダ州の農場主の息子と結婚をし、そこに暮らしている。
ただ、彼女が家にいることはほとんどない。アメリカとメキシコの間に設置された壁のために動物の生態域が変化しつつあるといった環境問題に関する講演をアメリカ国内のみならず世界で行うために、農園を営む夫とはなかなか一緒に過ごせない。私たちが着いた翌朝も「夫をよろしくね」と言い残して、別の州へ出かけてしまった。
妻が発った後、残された夫は「常に一緒にいることが結婚の優先順位じゃないから」と、さらりと言い切った。
