それでも研究生も含め総勢48名での出場はどうしても目立った。宮澤は《まだ大人数でメンバー全員が同じ衣装を着てステージに立つアイドルグループは珍しかったので、共演者の方からの「なんだ、この子たちは」という視線を感じましたね》とも振り返っている(同上)。
本番当日も、NHKホールで出番を待っていると、自分たちのことを「お遊戯会」と廊下で誰かが言ったのをメンバーのひとりが耳にして、ほかのメンバーに伝えにきた。1期生の峯岸みなみはこれにショックを受け、まだ知名度の低い自分たちがどう見られているかと考えるとどんどん不安になっていったという。
わずか1分35秒のステージで歌った「会いたかった」
いよいよ出番という直前、ステージの後ろで円陣を組むと、高橋がメンバーたちに「紅白を見て私たちを初めて知る人もいると思います。だから頑張ろう!」と声をかけた。峯岸もこのとき、結成当初は劇場に全然観客が入っていなかったことなど色々なことを思い出し、目に涙をためながら「ああ、ここまで来たんだな」と感慨を抱きながらステージにのぞんだ。
AKB初めての紅白のステージはわずか1分35秒。そのなかで彼女たちは2006年のメジャーデビュー曲「会いたかった」を全国の視聴者に向け、精一杯の笑顔で歌った。続けて中川翔子やリア・ディゾンと「なんてたってアイドル」を歌唱し、アキバ枠でのステージを終える。
奇しくもこの年の紅白には、結成10周年のモーニング娘。が同じハロー!プロジェクトのアイドルグループである℃-uteやBerryz工房と出場していた。モーニング娘。はこの時点で1~4期のメンバーがすでに全員卒業し、かつてとくらべると一般人気にかげりが出てきて、今後の方向性を模索していた時期だった。そのことを念頭にいま振り返ると、この年の紅白は、女性アイドルグループの世代交代を象徴する回だったともいえる。
とはいえ、この時点でのAKBは紅白での扱いからもあきらかなように、まだ世間的な知名度は低く、発展途上にあった。モー娘。に替わって「国民的アイドル」と呼ばれるようになるまでにはもうしばらく紆余曲折を経なければならなかった。



