また検察の体質として、不起訴の決裁をする際はあまり中身を精査しないことがあるが、起訴するとなると、公開裁判となり検察側の主張も試されることになるので、より慎重になる傾向がある。
加害者と被害者の供述がポイント
では物証がない場合、どのようにして容疑の合理的な根拠を見出すのだろうか。知人間で事件が起きた場合は、性行為があったことは双方とも認めていることが多く、問題は同意の有無となる。そこで加害者と被害者の間で食い違いが起きるわけだが、その際、どちらの供述をどのような理由で信用するか、がポイントになる。冤罪を防止する必要も、もちろんある。
田中氏によると、鍵となるのはまず、両者の関係性をどう見るか。二人は性行為を行うことが期待できるような関係にあったかどうか。事前にSNSなどでのやり取りがあると、その内容が客観証拠になる。知人であっても、そこに性的な会話が含まれていない場合は、そうした行為に至る関係にあったとは認めにくいという。
「忘れた」と加害者がごまかすことも
もう一つ重要になるのは、性行為に至った経緯だ。一方が口に出して誘い、もう一方が了承するといった性行為への同意を「明示」するようなことはほとんど起きない。しかし口にしていなくても、寄り添ってきたり自分から接触したりするなど「黙示」の同意があった、または性行為に同意していたと勘違いするような状況があった、とされる場合がある。ただ、例えキスしたとしても、それが性行為も同意したということになるわけではない。
性行為に至った経緯を確かめていく上で大切なのは、捜査側が加害者と被害者双方の話をしっかり聞くことだ、と田中氏は指摘する。それをせず、通りいっぺんのことを聞いて終わるケースが少なくないという。
供述内容には「無駄」も必要
当時の状況についての話を突き詰めていくと、加害者が途中で「忘れた」などと言ってごまかしてくる場合が出てくる。作り話だったら、そこまで答えられないことも多いからだ。また、性行為がどのように行われたかは話すが、その場面場面で自分がどう感じたかといった「自然なリアクション」を伴う内容が含まれないのは、不自然に見えることもある。