なぜ被告人の素行は問題にされないのか。これは法的な考えで言う「悪性格(類似事実)の立証」に当たると見なされるからだ。「その人が犯罪をしたかどうかと、その人の過去の『悪性格』は直接関係しない」という考え方が背景にあるため、と田中氏は解説する。さらに「被告人を有罪にする方向の証拠の採用や評価は、厳密にしないといけない」という考え方も関係している。「疑わしきは罰せず」の法則だ。一方、被害者は被告人ではないのでこうした考え方の対象外となり、素行を問題にすることが妨げられない、という極めて非対称的な形になっている。
しかし田中氏は、多くの先進国では既に、被害者の性的経歴を証拠にさせない「レイプ・シールド法」が何らかの形で導入されていると言う。性暴力の被害者が風俗業に従事していたり、性的行動に活発だったことが判決に影響するのは避けるべきだという考えからだ。
アンフェアな刑事手続きを変える動き
また、裁判員裁判が導入されて以後、被告人に性犯罪の前歴があるとか、わいせつ動画のコレクションをしていることなどは「悪性格の立証」に当たり、裁判員に予断を与えるため許されない、という運用になってきていて問題だ、と田中氏は指摘する。過去の裁判では認められていたのに、法的根拠がはっきりしないまま、裁判官の裁量で証拠を規制することが増えているという。
田中氏はこうした状況はアンフェアだと見なしており、日本でも「レイプ・シールド法」を導入すると共に、被告人の「悪性格の立証」も英米と同様の要件で許容し、法理論の整合性を図るべきだと考えている。
報道も一般の人も被害者ばかり詮索
加害者の「悪性格」の追及は控えるのに、被害者の「悪性格」の追及は止めない、というこの話は示唆的だ。司法の話ではあるが、メディアの報道や一般の人々の考え方も、これに影響されている可能性はないだろうか。日本の新聞やテレビの事件報道は基本、警察発表や捜査陣からの情報をもとにしている。無意識のうちに、捜査で行われていることを報道でも繰り返していないか。