母の「不思議な厄払い」から、道が開けた
75年、もう音楽活動を辞めようかと考えながら里帰りし、母親イクさんに会う。「不吉な予感しかしない」と弱音を吐くと、イクさんは息子が哀れに思ったのか、「お前の背中には貧乏神と疫病神が取り憑いている。お祓いしよう」と言い出した。
何をするのかと身構えたが、やったことといえば2人で乾杯して「おめでたい、おめでたい」と言ったくらい。そうすれば疫病神もあきらめて出て行ってくれるだろうという母のやさしさだろうと、真に受けず「はいはい、カンパーイ」とおざなりに一緒に“祝杯”を挙げて、東京に戻った。
そのおまじないのような厄払いが効いたとは思えないが、しばらくして風向きが変わった。
アリスの谷村新司さんとの出会いである。
「当時、うちの妻が原宿のブティックでバイトをして、食いつないでいたんです。私はときどき彼女を迎えに行ったりしていたんですが、その時、その店の切り盛りを任されている女性マネージャーを目にしたことがありました。店の経営者が信頼するその女性は、それはそれはテキパキと仕事をする人で、実は谷村新司さんの恋人だったんです。
その関係で谷村さんと会うことになるんです。当時アリスは全国でコンサートを展開していたんですが、客の入りにムラがあるそうで、谷村さん、入らないコンサートの話ばっかりするんです。『うちもだよ』という話をしたら、『事務所はどうなんだ?』と聞いてくるんですね。正直に『いや、もう風前の灯火』と言ったら、こんな提案をするんですね。
『自分がいる事務所は新興だけど、必死に仕事を見つけてくるんだ。だからうちに来ないか? リンゴ箱の上で歌う仕事もあるけど、とにかく歌う場所だけは用意するよ』と。谷村さんは人の弱みにつけ込むような人ではないのはわかっていたから、事務所の社長と会うことにしたんです」
そこで出会ったのが「ヤングジャパン」の細川健社長だ。谷村さんはここでも面倒見がよく、給料についても話をつけてくれたという。
「メンバー均等に12万円だと。で、ここからが谷村さんらしいんだけど、『鉄矢はリーダーで、子どもも生まれたばかりだから5000円プラスでどう?』って」
