「元気いっぱいウンコしてどうするんだ」「喜劇っていうのはね、泣きながら作るんだ」
武田さんは、いわゆる「山田組」のことを、自身にとっては「山田学校」だったと表現する。芝居経験がない中、たった1人の生徒として鍛えられたという思いがある。
いまでも鮮明に覚えているシーンがある。カニを食べ過ぎてお腹を下し、大便を我慢して七転八倒するシーンだ。武田さんは、これは誰がやっても爆笑を巻き起こす芝居ができると、面白おかしく演技した。
「また監督から『違う! 違う!』とお𠮟りですよ。山田監督、こうおっしゃるんです。
『考えてごらん、君は朱美の前でいい格好したいのに下痢してるんだぜ。情けないんだよ。自分に腹が立つんだよ。君の両目は涙が滲んでるかもしれない。君の演技にはその葛藤が全くない。元気いっぱいウンコしてどうするんだ。喜劇っていうのはね、泣きながら作るんだ。渥美清さんを見てごらん。失恋シーンで、あの人は必ず涙ぐんでるんだ。だからお客さんは安心して笑える。喜劇はおふざけじゃないんだ』
その説教はまだ覚えてますね。もう50年近く前のことですけど」
高倉健に、まさかの「ナンパ」をけしかけた夜
高倉健さん、桃井さん、武田さんは日を追うごとに、芝居だけでなくオフの時間でも「仲間」になっていった。山田組では、撮影が終わるとみんなで食卓を囲む習わしがある。そこで高倉健さんが、「夕飯はそこそこにして、後で外に飯を食いに行こう」ということが何度かあったという。
中でも武田さんが忘れられない一夜として、中華料理を食べにいったときのことをこう話す。
「健さんのことを煽って、『健さん、モテるんだから、土地の女なんかに手をだしちゃったら?』って言ったら、『俺はモテないよ』って。『モテますって! 健さんなら一発でついてきてくれますよ』と食い下がったら、健さんも面白くなってきたんでしょうね。『一発やるか。よーし、不良になっちゃおうかな』って。
そしたら、一応割烹着は着ているんですけど、その下にチャイナドレスや落下傘スカートを身につけた女性が料理を運んでくるようになって。あとでわかったんですが、われわれのやり取りを聞いていた店の人が、近くのキャバレーの女の子に非常招集をかけて、行ってこいと、けしかけたらしいんです。健さん、腹かかえて笑っていましたね」
