5年超に及ぶ移植待機の末、3年前に心臓移植を受けた男性を取材した際、彼はこう語っていた。

「移植を待っている間にコロナ禍が始まり、長期入院したまま家族にも会えない生活になりました。闘病仲間も次々に亡くなり、自分はもう、家族にも友人にも会えずに死んでいくんだと怖かった。移植が決まったときは涙が止まりませんでした。いただいた心臓を、一生大事にしていきたいと思っています」

日本の移植後の成績は、世界的に見て極めて良好だ。

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欧米で約6割とされる心臓移植者の10年生存率は約90%、20年生存率も7割を超える。

臓器移植法制定後の最初期に移植を受け、いまも現役で働く人もいる。これは医療者がひとりひとりのドナー、レシピエント(臓器提供を受けた患者)に丁寧に向き合い、レシピエントもまた、服薬や生活制限を守りながら臓器を大切に引き継いできた結果だ。

しかし近年、こうしたレシピエントの考え方が変わりつつあると福嶌医師は懸念する。

変化する“臓器提供”が持つ重み

補助人工心臓を付けて待機している間、かつては男性のように長期入院が必要だった。しかし現在は体内埋め込み式の補助人工心臓が発達し、成人なら自宅で生活しながら移植を待つことができるケースも多い。

待機期間も短くなり、「死の恐怖」に直面しないまま移植にたどり着く人もいる。そのこと自体は、移植医療が発展した証左だ。

「しかしその分、心臓を頂くことや、移植後の生活制限を軽く考える人が増えた印象です。

移植の陰には、脳死になり臓器を提供してくださったドナーと、そのご家族がいるんです。ドナーのご家族にとって何よりうれしいのは、大切な家族の臓器が誰かの身体の中で動き続けること。その思いに応えるためにも、ドナーやそのご家族への敬意を持ち続けることが、レシピエント本人にも、医療者や社会にも必要です」(福嶌医師)

福嶌医師が言うように、これまでの日本の脳死臓器移植には計1300人超のドナーが存在し、大切な家族の臓器提供を決断した家族の思いがある。