そのことをきっかけに妻と母の関係は壊れてしまった。

「多くのご家族は深い愛情があるからこそ、本人の意思を慮り、悩んだ末に提供を決めるんです。感謝状1枚で死別の悲しみが癒えるわけではないけれど、2人に贈ったって何の問題もないでしょう。これは一例ですが、硬直化してドナー家族ひとりひとりに寄り添えない場面がいくつもあるんです」

ドナー家族をケアする仕組みも不十分だ。

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臓器提供を決断し、法的脳死判定から移植にいたるまでの最後の数日間をどう過ごせるかは病院の努力次第で、しっかりとした別れの時間を持てないこともあるという。

福嶌医師は続ける。

「グリーフケアに熟練した医療者がいて終末期家族を支援する医療チームがあれば、例えば最期にアルバムをつくりませんか、とか、お子さんだったら手形や足形を取りませんか、とか。好きな音楽をかけたり、好きな服を用意したり、そうした時間を持つこともできます。しかし、実際には最後の時を支える医療チームはおらず、病院の看護師が忙しい合間に何とか向き合っているのが現状なんです」

「先生は、私たちを利用したんですか」

福嶌医師は、その時々の状況に応じてドナー家族に寄り添うグリーフケア専門家の必要性を長く主張してきた。

しかし、現状はそれに沿っているとはいいがたい。唯一の臓器あっせん機関である日本臓器移植ネットワーク(JOT)は、ドナーとレシピエントのマッチングだけでなく、レシピエントの登録、ドナー家族への説明、移植後の状況把握と報告、感謝状の手配、移植医療の普及啓発など幅広い業務を担っており、ドナー家族ひとりひとりに寄り添ったケアまで十分に手が回らないのが実情だという。

2009年の臓器移植法改正時、福嶌医師は改正運動の先頭に立っていた。そのとき、協力してくれた家族や国会議員らに約束していたことがある。

「絶対にドナー家族を守れる社会にするから、家族の同意だけで移植できるようにしてほしいと訴え続けました。しかし今、それができていない。ドナー家族から『先生は移植推進に私たちを利用したんですか』と問われたこともあります。でも、ドナー家族の思いを忘れた移植なんてあり得ないんです」