「ハマスは、イスラエルの創造物だ」

 だが、このイスラエルの近視眼的な戦略は、交渉可能であったPLOに比べて、よりイデオロギー的に硬直化し、妥協を許さず、イスラエルの存在そのものを否定するハマスという過激組織を生んでしまった。

 元イスラエル高官のアヴナー・コーヘンが、「ウォール・ストリート・ジャーナル」紙に「ハマスは、非常に残念なことに、イスラエルの創造物だ」(2009年1月24日)と語っているのは象徴的だ。

 アメリカがソ連に対抗して都合のいい抵抗勢力だったムジャヒディンを援助したことが、のちにアルカイダを生んだことと相似形の歴史的過ちがここにはある。

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 1993年にイスラエルとPLOは「オスロ合意」を結び、イスラエルを国家として、PLOをパレスチナの自治政府として相互に承認することを確認したが、ハマスはこれを真っ向から非難。自爆テロをふくむ暴力的な抵抗で、和平交渉そのものを揺るがした。

©AFLO

 ハマスが民衆に支持された背景には、オスロ合意後もイスラエルの入植拡大が止まらなかったこと、追い詰められたパレスチナ人の生活は改善せず、パレスチナ自治政府に腐敗が蔓延していたという事情もある。その帰結が、2006年のパレスチナ立法評議会選挙でのハマスの圧勝であった。この選挙結果に対して、ハマスをテロ組織とみなすイスラエル、アメリカは承認を拒否し、厳しい経済制裁を科すと同時に、今度はPLO主流派のファタハに武器を供与する。

 イランの手厚い支援を受けたハマスと、ファタハの対立は激化し、2007年にハマスは武力でガザ地区を制圧。一方、ファタハはヨルダン川西岸地区の支配を強化し、パレスチナは地理的にも政治的にも分裂した。こうして統一されたパレスチナの交渉相手がいなくなってしまったことは、より和平への道が遠のくことを意味する。

「天井のない監獄」とも呼ばれるガザ地区では、長年にわたってハマスとイスラエルの衝突が続いたが、圧倒的な軍事力を背景にイスラエル軍は多大なる被害をガザ地区に与えてきた。イスラエルによるガザ地区への輸出入停止命令などで緊張が極度に高まっていた直後の2023年10月、ハマスによるイスラエル領土への奇襲が起きたのである。

死亡者数6万人を超える“民族浄化”

 ガザでの戦闘は混迷を極め、今やトランプ大統領がパレスチナ住民210万人を永久移住させ、アメリカがガザ地区を「引き取る」提案まで出たが、これはもはや民族浄化(エスニック・クレンジング)にほかならない。

 現在、ガザでの死亡者数は6万人を超え(BBC発表)、国連人権高等弁務官事務所(OHCHR)によると死者の7割近くが女性と子どもと発表されている。

空爆されるガザ ©AFLO

 私は、イスラム過激主義というイデオロギーは“中東の癌”だと思っている。一般市民を巻き込んだ無差別テロや誘拐、自爆テロは、いかなる理由があってもイスラムの教えに照らして正当化されるものではない。ムスリム同胞団、ハマス、ヒズボラのようなテロ組織の思想は、イスラム教そのものを汚していると確信している。

 だが同時に、大国による巨額の資金提供・軍事的支援といった短絡的な地政学的戦略の過ちが、しばしば将来にわたってより強大な脅威と、一般市民への深刻な人道的危機を生み出してきた現実から目を背けてはならないだろう。テロ組織、覇権国家、ともに無実の貧しい人々が犠牲になる横で、バイオレンスによって儲かっている者たちが必ずいるのである。