イスラエルへの支援を惜しまないアメリカの心理
よく日本の読者から、アメリカはなぜそこまでイスラエルに肩入れするのか疑問に思うという声が聞かれる。イスラエルは第二次世界大戦後、アメリカの対外援助を最も潤沢に受け取った国であり、その総額は1740億ドルを超える(U.S. Foreign Aid to Israel:Overviewand Developments since October 7, 2023)。
実は1986年に当時上院議員だったバイデン前大統領は「イスラエルという国がもしなかったら、我々が発明しなければならないだろう」ということまで語っていて、中東をコントロールする安全保障上の最重要ファクターと見ていた。
アメリカ人のメンタリティをもう少し深掘りすると、アメリカの有権者の約4分の1を占める福音派キリスト教徒の間には、「聖地エルサレムへのユダヤ人の帰還は聖書の預言の成就」とみなす宗教的信念が存在する。この世界観のもとでは、イスラエル支援は神聖な義務として捉えられるわけだ。
そこには、第二次世界大戦中、ホロコーストを防げなかったことに対する欧米諸国の罪悪感もあるのだろう。ユダヤ人のための安全な避難所を確保すべきという道徳的な責務感は、歴代のアメリカ大統領によって、イスラエルの安全保障にコミットメントすべき理由としてたびたび言及されてきた。「中東の独裁の海に浮かぶ孤高の民主主義国家」というナラティブが、アメリカ建国の開拓者精神を刺激してやまないのかもしれない。
そして何よりも、石油という重要資源の安定的確保、中東の対立から得られる軍産複合体にとっての莫大な利益が絡んでいる。これらの要素が絡まりあって、イスラエルの軍事行動に対してアメリカは無条件的な支援を与え続けてきたのだ。
「対中国」を見据えて軍事的リソースを再編
だが、ここにきて、アメリカは国家安全保障戦略の根本的な転換を図ろうとしている。9.11以降の「対テロ戦争」は優先順位を下げ、代わりに中国、ロシアとの「大国間競争」が最重要課題として浮上したのである。
その予兆は、2017年のトランプ政権下で発表された国家安全保障戦略ですでに現れていた。イスラム過激派との「対テロ戦争」から、中国とロシアとの「大国間競争」へと戦略の重心を移行させるという方針が織り込まれ、これは続くバイデン政権にも引き継がれ強化されていた。外交的・軍事的リソースをインド太平洋地域へ移すという戦略だ。
2013年頃から米中新冷戦は始まっていたが、気づけば中国は200万人規模の現役軍人を抱え(アメリカは143万人ほどだ)、防衛予算はアメリカに次ぐ世界第2位で、航空戦力と核弾頭保有数は世界第3位、艦艇隻数にいたっては世界最多を誇るようになっており、世界第2位の経済大国となっていたのである。今後の覇権争いを冷静に考えたとき、ウクライナ戦争への援助で総額1800億ドル以上もの支出をしているアメリカにとって「中東とアジア太平洋と同時に戦える力はあるのか?」というリアルな問いに対する答えは明白だった。

