「廓の中は女ばっかりの世界だいけんな、用事ば言いつけられたら、ハイハイて言うてね、口ごたえしたらいかんよ。お客さんにも逆うたらいかんよ。また来てもらわんといかんけんね。そしてお客や店から煙草買うて来てて言われたら、走って買いに来にゃいかんばい。すぐに動けばご褒美に小遣い銭をくれるからね。一万円崩してくれて言われたら、おばさんが細かとに崩してやるけんな。そんなら小遣い銭を渡しやすくなるからね」
そして客が取れるようになったら、
「あんたは親孝行だと思って、きつかばってん、がまだし(頑張り)なさい。そうすると良か身請けをしてくれる人ができるかもしれん」
と励まして。律儀な娘は「またお客さんからもろうた」と言って、お菓子や土産ば持って来ることもありました。お客を初めて取るときに、「おばちゃん、何ば話したら良かろうか」と相談されたこともあります。
売れる娘ほど梅毒に罹った
盆暮れは、賑わう(客が多くつく)娘は故郷に帰りよった。しかし年季を終えて帰った者は少なかったですね。最後は病気に罹る人が多かった。
戦争前は日本髪でしたね。髪を結うとき引っ張られるから痛いと言ってね。
やはり娼妓というのは、口は上手でも顔が良うないとね。かわいい娘のほうがお客さんに身請けされてもらわれて行きよった。たいてい、夫婦になる人が多かったですね。ときには結婚してもうちの店に訪ねて来る者もおった。今でもときどき「おばちゃん元気ね?」と見えられる。とくにこの近所にいる人は顔を出してくれますね。私はいつも言います。
「あんたも良かったばい。良かご主人ば見つけたけんね。もしご主人と出会わなければ、実家に帰るしかなかったからね」
家庭に入ったら、二本木にいたことは隠しとりました。過去を知っているのはご主人だけです。ただ、結婚しても子供はできませんね。体が酷い(酷使した)ですからね。
娼妓はだいたい35、6歳で辞めます。30歳過ぎるとあまり客がつかん。いつまでも店にいる娘もいました。売れない娘は仲居とか客引きとして店に残っておった。
ただね、売れる娘はすぐ病気に罹ってしまう。梅毒ですね。花柳病(性病)の検診は1週間に一度、ちょうどうちの前を通っていきました。検診に引っかかると、店には帰られません。