あろうことか、陰謀論インフルエンサーのナオミ・ウルフと混同されてしまった超有名フェミニストのナオミ・クライン。“もう一人の自分”がコロナ関連の根拠のない憶測をばら撒き始めても、最初は静観していたが……。
ここでは、クライン氏が自身の“ドッペルゲンガー”がはまり込む陰謀論の世界に潜入してまとめた『ドッペルゲンガー』(岩波書店)より一部を抜粋して、クライン氏がSNSのプロフィールに「あのナオミではありません」と記載するまでの経緯を紹介する。
ナオミ・ウルフの荒唐無稽なツイートの内容に、クライン氏のパートナーであり映画監督でプロデューサーのアヴラム・ルイスが見せた反応とは……。(全2回の2回目/最初から読む)
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コロナ登場により脅威が増幅
「このツイート、ちょっと聞いてくれない?」私は片手にノートパソコンを載せ、そう言いながらキッチンに入って行った。
「いいよ」とアヴィ。唇はギュッと結んだままだ。2021年9月のカナダ連邦下院議員選挙に出馬することを決めた彼は、ありとあらゆる重大な事柄への対応に追われていた。選挙参謀を早く決めなければならない、政策の素案も練らなければ、そして数万ドルの資金をどうやって調達するか……。
「たった今、彼女、こんなツイートしてる。ワクチンを打った人の糞尿はワクチンを打っていない人の飲料水への影響がはっきりするまで一般の下水処理用の排水溝とは分けて流すべきだって。信じられる? ワクチンを打った人は生物学的災害(バイオハザード)だっていうのよ! 普通とは別の下水処理システムをつくるべきだって!」
「そんな話してどうするつもり?」アヴィは少しいらだちながら言った。
いや実際、どうするつもりなのだろう?
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コロナ禍以前には、陰謀論的な主張を拡散するのは、ウルフにとって一種の趣味のようなものだったようだ。エボラ出血熱に始まってスノーデン、G、ISIS(イスラム国)……と次から次へとその対象は変わり、ひとつのテーマに長くとどまることはなかった。実際に何かを立証するまでそれを追求したことは一度もない。ただ、ここに問題があると「旗を揚げ」、いくつもの問いを投げかけるだけで、やがて次のテーマへと移っていってしまうのだ。
ラッセル・ミュアヘッドとナンシー・ローゼンブラムの2020年の共著『大勢の人がそう言っている(A Lot of People Are Saying)』(未邦訳)では、これを典型的な「理論なき陰謀」と呼んでいる。幅広い種類の何の根拠もないバカげた主張を信じる人が急増していることを受け、その意味を探ろうとする文献が数多く出されているが、この本もそのうちの一冊だ。
だがコロナ時代になってからのウルフの発信を注視していた私は、何かが違うことにすぐ気づいた。以前のように、次から次へと違うテーマに飛んでは問いを発することはもうしない。今やひとつのテーマ――コロナウイルス――だけに集中しているようだった。ウイルスの起源、ロックダウン、検査、マスク着用義務、ワクチン、ワクチン接種義務、ワクチン接種証明アプリ……。でもそれらは、コロナのことに見せかけているだけだと彼女は言う。
