「やっぱり、本を読んだっていうのが結構大きかったですね。精神科の人の本もいっぱい読んだし、宗教の本もたくさん読みました。でも結局、決断するのは自分だし、考えていくのは自分なんですよ。自分が納得できるだけの情報と知識を入れないと、自分で自分を納得させることはできないんです」
今、加奈さんは春代さんと一緒に働いている。20代半ばまでは、春代さんと衝突を繰り返したが、かつてのように喧嘩することはない。仕事上、加奈さんと春代さんが共同で作業しなければならない場面もあるため、家では仕事のスケジュールや進め方について話すことも多い。「ビジネスライクな関係」と加奈さんは言うが、仕事を介して接しているからこそ、喧嘩せずにいられるのだという。親と子だけの結びつきしかなくなると、かえって息苦しく、かつてのように衝突してしまうのではないかと思っている。
「オウム3世」とそしられる恐怖
加奈さんへの取材は、日を分けて3回に及んだ。いずれも加奈さんの自宅のリビングで、テーブルを挟んで2~3時間、じっくりと話を聞いた。ただ、いつも決まって午後5時頃になると、加奈さんは「子どものお迎えがあるので……」と言って外出の支度を始める。そこが取材を切り上げるタイミングだった。
現在40代の加奈さんには、3人の子どもがいる。ただ、結婚しているわけではないという。一体、どういうことなのか。聞きにくいことなのでためらっていると、それを察したかのように、加奈さん自身がわけを教えてくれた。
長女を授かったのは、20年近く前のことだ。そのときの相手にはオウムにいたことなど伝えていなかったが、一方的に縁を切られた。社会的地位がある家庭の息子で、「父親としての認知は求めない」などの念書を書かされた。したがって生まれた子は、加奈さん自身の手で育てるしかなかった。加奈さんや母親の春代さんが、教団から完全に離れる前のことである。
生まれた子を愛らしく思いながらも、加奈さんには親としての自覚がまだなかった。この頃、社会人として働き出してから間もなく、長時間の通勤や職場のルールに慣れるのに精いっぱいだった。「育児放棄しているようだった」という加奈さんは、子どもを春代さんや教団関係者の家族に預けることもあった。半年間ほど、子どもと離れて一人暮らしをした時期もあった。