「一般的な宗教なのか、オウムのようにヘンな教えなのか。その境界線がわからない」
教団を完全に離れてから15年以上がたつ。
加奈さんが暮らす地方都市は、車で少し行けば大型商業施設やドラッグストアなどがあり、生活には困らない。東京にも電車と新幹線を使えば、短時間で行くことができる。趣味のライブにもしばしば出かけているという。
毎日の仕事も充実し、オウムのことを思い出すことはほとんどない。しかし、時折、ふとした瞬間にオウムの教義がよみがえることがあるという。
虫が出たときに、すぐにつぶせない。蚊をたたくことができない。草をむしった後に、もしかしたら地獄に堕ちるのではないか─。「殺生の禁止」という教義のもと、ゴキブリすら殺すことが許されなかった加奈さんには、死後の世界の恐怖が刷り込まれていた。
「現世で殺生をしていると、地獄に堕ちるんじゃないか。自分の魂が輪廻転生した後に、人になるとは限らない。違うものになってしまうのではないか。すごく怖いんです。その恐怖がふっと出てくるときがあるんです」
教団内でいちばん聞いたマントラはいまだに唱えられるという。何気なく見ていたテレビで、インドやヨガの映像が流れると、教団の中で読んだ本のどこに同じような内容が載っていたか、ページ単位で頭に浮かぶこともある。
「ずっとどこかしら、根底に流れているというか。言い方が正しいかわからないですけど、ルーツのようなものとして、ずっとやっぱり自分の奥底にあるものなので、忘れることはできないですね。かといって、普段思い出すこともそんなにないのですが……」
もちろん、そのことで日常生活に支障をきたすことはない。ただ、加奈さんは意識して「宗教」や「スピリチュアルなもの」に近づかないようにしている。ヨガや瞑想をすることもない。
「一般的な宗教なのか、オウムのようにヘンな教えなのか。その境界線がわからないから、近寄りたくないんですよね。どこまでいったら“ヘン”なのか、自分ではわからないんです。すごく不思議な感覚なんですけど、たぶん同族嫌悪に近い思いもあるんでしょうね……」
2人の息子は、テレビアニメ『鬼滅の刃』に夢中で、無邪気に「輪廻転生」とは何か、「地獄」とは何かと聞いてくることがあるが、加奈さんはあまり答えたくない。
オウムにいたからこそ、仏教を含め、宗教に関わるような話をすることにどうしても抵抗を感じるというのだ。
それでも加奈さんは、オウムにいたことそのものを否定することはできない。そこで育ってしまった以上、オウムが起こした事件や教義を否定することはできても、自分の過去をなかったことにするのは無理だった。
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