1995年5月16日、オウム真理教の絶対的な存在だった麻原彰晃が逮捕された。5歳で出家し、教団施設で育った加奈さん(仮名)にとって、それは自分の世界が崩壊した日であったといえる。

 警察に保護され、児童養護施設に入った彼女は、大人たちから「オウムにいたことは言ってはいけない」と声をかけられた。同級生たちが面白半分でオウムの歌を歌う教室で、素性を隠し、ひたすらウソをつき続けるしかなかった少女の苦悩とは……。

 NHK「クローズアップ現代」取材班による『オウム真理教の子どもたち 知られざる30年』(集英社インターナショナル)の一部を抜粋して紹介する。

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オウム真理教教団施設を家宅捜索をする長野県警捜査員(長野・川上村) ※オンライン記事にのみ使用している写真です ©時事通信社

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オウムの世界が崩壊した日

 その日のことを加奈さんはよく覚えている。

 もう自分は第10サティアンに戻ることはできない─と悟った日だ。95年5月16日、絶対的な存在だった教祖の麻原彰晃がついに逮捕されたのだ。テレビニュースを見た加奈さんは混乱した。自分たちが正しく、警察が敵だったはずなのに、なぜ尊師は逮捕されなければならないのか。教団内の論理と現実との矛盾を直視せざるを得なくなった。

「世論を操作するのが警察や政府だと教わっていたので、教祖は悪くない、冤罪だと思っていました。でも、自分たちが生活してきた場所、上九一色村のサティアンには、これで戻れないんだろうなと思って、なくなることへのショックは感じました。陰謀だと思いつつも、世の中の動きとしては、こういう感じなんだとわかったんです」

 このとき、5年以上教団内で生活してきた加奈さんにとって、教祖の逮捕をすぐに受け入れることは、無理だった。それでも当面はオウムの生活に戻ることはできないと覚悟せざるを得ない。そこで、どのように自分を納得させたのか。

「現世にいちゃいけないという気持ちは、絶対的に昔からのものとしてある。でも、今いるところは楽しい。両方の気持ちがあったことは覚えています。だから、オウムに戻るため、今ここにいることを肯定するために、とりあえず、なびいておく。そういう理由を後づけで考えたんだと思います」