早くオウムの生活に戻るため、職員たちに表向き従っているように振る舞い、今の生活を受け入れることにしたのだという。「オウム日誌」には、加奈さんについて「職員とも話をよくする。温和になり接し方も明るい」と記されていた。
楽しんでいると偽っているつもりでも、本当に心から生活を楽しむ自分もいた。
子どもたちの心理状態を調べるために描かせた絵には…
今回の取材の中で、加奈さんが描いた絵を入手した。児相が子どもたちの心理状態を調べるために描かせた、HTP検査(編集部注:絵を描いてもらうことで、被験者の深層心理を調べる性格検査)の絵だ。そこには加奈さんの心の揺れ動きが表れていた。
4月19日に描いた絵と、5月31日に描いた絵を並べてみると、大きな違いがある。いずれも人物画だが、4月に描いた絵よりも5月末に描いた絵のほうが極端に小さくなっているのだ。この絵の変化をどう解釈すればよいのか。加奈さんに当時の絵を見てもらったが、「だいぶ小さくなりましたね……。昔、描いていたような気がします」という反応以外に言葉はなかった。
子どもたちの面接をしていた精神科医の藤原茂樹さん。実は当時、加奈さんも診察し、絵の分析をしていたのだ。
早速、加奈さんの絵を持って、藤原さんが営む医院を訪ねた。藤原さんは加奈さんのことを覚えていた。加奈さんの描いた絵に、鮮烈な印象が残っていたからだ。
「大きくてはっきりとした絵というのは、(絵の人物に)自分を投影している。尊敬する人と同一化したいという思いが強い。それをなくしてしまうと、虫のような小さな自己を投影したものとなる。麻原が逮捕されたことで、自分の中に混乱、失望が生じ、これから先どうしようという不安があったのだと思います」
藤原さんは、麻原逮捕が、加奈さんの内面に大きな衝撃を与えたとみていた。自己を投影した人物画が小さくなり、しかも右下の隅っこに描かれているという特徴は、「中心に出たくない。隠れていたい」という内面を表していると解釈できる。教団を出た後の人生をどう切り開いていくのか、現実を直視し、受け入れていくには、長い時間がかかるというのだ。