「姫ちゃんは?」妻から問いかけられた

 夜になり、駐車場は真っ暗になった。「家族で生きているのは自分と長男だけなのだろうか」という疑念を打ち消しながら過ごす。午後10時を過ぎると、メールが通じた。妻から「波が引いたので迎えに来て」と連絡が入った。ドロドロになった道路を車で向かう。アパートの一帯も津波に襲われていて、妻は海が松林を呑み込んで来襲するのを目撃していた。1階が浸水し、妻の車も流されたが、2階の部屋は助かった。

 妻には「姫ちゃんは?」と聞かれた。貴さんは「薄磯にお婆ちゃんといる」としか答えられなかった。

アパートから新築の家に運んだ鈴木姫花さんの学習机は当時のままだ。引き出しには人気だったカードゲームが入れてある(鈴木さん宅)

 停電し、断水もしていたので、貴さんは妻と2人の子を連れて職場へ向かった。塾も断水していたが、電気は通じていた。テレビを点けると、宮城県の仙台平野が津波に呑まれていく映像が流れていた。貴さんは愕然とする。「薄磯でも同じようなことが起きたのか」と。

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 妻は母・明美さんのメッセージが入っていないか伝言ダイヤルに掛けるなどしたが、手掛かりはなかった。

「明日、太陽が上がったら捜してくる」。妻にはそう告げたが、テレビの映像があまりに衝撃的で「助かっていないかもしれない」という気持ちが次第に心を占めた。

「いや、母は几帳面で賢い人だから、2階に上がって助けを待っているはずだ。とにかく捜しに行かないと」と打ち消した。

 涙があふれ、横になっても眠れなかった。

次の記事に続く 「娘のいない誕生日やクリスマス、受け入れられなかった」津波でうばわれた小4長女の命…50歳の父が涙ながらに語る「本当につらかったこと」

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