最近力を入れている会員制の「アマゾン・プライム」というビジネスでは、定額制で音楽聞き放題、映画も見放題。雑誌や書籍の定額読み放題も始めた。利用者からは絶大なる支持を集めているが、音楽、映画、出版業界にとっては脅威だ。
一九六四年生まれのベゾスは、プリンストン大学でコンピューター工学を学んだが、ウォールストリートの金融機関に就職。一九九〇年にヘッジファンドのD・E・ショーに転職し、上級副社長にまで上り詰めた。
しかし、一九九四年、三十歳の春にインターネットの可能性に目覚めて電子書店を立ち上げた。起業家としては遅咲きである。
「顧客の利益につながることをやっていれば、必ず世の中から必要とされる」
ベゾスのビジネスを貫くのは、徹底的な「顧客第一主義」だ。常に新しいサービスで顧客の目を引こうとする。背景にはアップルの創業者スティーブ・ジョブズと同様、養子として育った経緯があるとも言われる。常に自己主張し、注目されていないと不安なのだ。
アマゾンは利益を出さないことでも有名だ。アマゾン・ドット・コムは今や年間売上高七兆円の巨大流通企業だが、売上の増加を上回るペースで投資をしているからだ。
注文した日に品物が届くように最先端の物流網を構築し、ドローン(無人小型機)を使った配送も本気で実現しようとしている。
ブルーオリジンという宇宙開発の会社を立ち上げ、テスラモーターズ創業者のイーロン・マスクと競っているのも「顧客に宇宙旅行という最高の体験を届けるため」だ。二〇〇一年にネットバブルが崩壊し、アマゾンの株価が十分の一になった時も、「顧客がついていてくれれば大丈夫」と全く動じなかった。
「影響を受けた経営者はウォルト・ディズニー」というベゾスは自らの存在を証明するために、全能力を傾けて顧客を楽しませようとしている。そんなベゾスは、ソニー創業者の盛田昭夫も尊敬してやまない。
「盛田さんは、日本の製品が高品質であると世界に伝えようという大きな使命感を持っていた」
しかし顧客満足だけを目指して突き進むベゾスは、ディズニーや盛田のように愛されない。「私は金の亡者ではなく伝道師。だが皮肉なことに伝道師の方が金を儲けてしまう」。一言余分なのだ。