決してありえないだろうと思っていた場面が実現

 大谷はこの緊張の場面で、ベッツに内野ゴロを打たせ、日本はダブルプレーをとり、走者なしの状態でトラウトを打席に迎えることになる。

「あの場面で感情を落ち着かせようとしていたのか、深呼吸しているのを見たよ」

 デローサ監督はこう振り返った。

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「普段はチームメイトである世界最高の2人の選手が決勝の場面で対決する、そんな場面は想像すらできなかったよ」

 あの瞬間、大会を見守ってきた人たちは軒並み、決してありえないだろうと思っていた場面が実現したことにただただ興奮した。

 大谷とトラウトは、ともに2週間前にこの大会に入り、大谷は地球の反対側でプレーしていた。両チームは決勝までに6試合を乗り越える必要があり、誰もが見たい対決が、誰もが望んでいた場面で実現したのだ。

 決勝戦
 9回
 ツーアウト
 1点差
 大谷対トラウト

栗山英樹監督 ©文藝春秋

フルカウントとなった次の1球、速球か、スイーパーか…

 最初の5球は、ボールとストライクが交互に投じられた。トラウトはうち2球の速球を空振りし、どちらも球速は100マイル(約161キロ)を記録。2球ともホームベースの真ん中を突き抜けていた。

 そして、フルカウントとなった次の1球、大谷は速球で決めにくるのか、それともスイーパーで仕留めにくるのか。

 大谷は一度間をとって、マウンドに立ちながら指に息をふきかけた。

 それからプレートに足をかけ、投球モーションに入ってスイーパーを投じた。 

 トラウトは豪快に空振りし、バットをすり抜けたボールはキャッチャーミットにおさまった。

「あれは完璧な投球だったよ」

 何カ月もたってから、トラウトはあらためて振り返った。

「考えてみれば、あいつと打席で対戦するのは初めてだったからね。スプリングトレーニング中でさえ、そんな機会はなかった。リーグの他球団の選手たちが言っていることがやっとわかったよ。あれは、本当にエグかった」