常に結果を求められるメジャーリーグの世界。そのシビアな環境下にあって、吉田正尚は「オンとオフの落差が激しすぎる」という。

 オフシーズンは自由気ままに過ごす夫に対し、ゆり香夫人はある夜、「現役時間は短いのだから、もっと真剣に野球に取り組んでもいいんじゃない?」と意を決して問いかけた。メジャーリーガーの妻ならではの葛藤に対し、吉田が返した言葉とは……。

 ノンフィクション作家の長谷川晶一が、吉田のチャリティ活動についての取り組みから彼の実像に迫った『決断ーカンボジア72時間ー』(主婦の友社)の一部を抜粋して紹介する。

ADVERTISEMENT

◆◆◆

「オレは《吉田正尚》の人生を生きたい」

「主人には口癖があるんです……」

 ゆり香夫人が言った。

「……彼がいつも口にするのは、“オレは《吉田正尚》の人生を生きたいんだ”という言葉です。プロ野球選手であり、メジャーリーガーである以前に、《吉田正尚》という一人の人間なんだ。そんな意味を込めて口にしている言葉です」

吉田正尚 ©文藝春秋

 そして、ゆり香夫人は「実は……」と言って、夫婦間のやり取りを教えてくれた。

「彼が本当に一生懸命、野球に打ち込んでいること、頑張っていることは、近くで見ている私がいちばん理解しています。でも、こんなことを言ったらいけないのかもしれないけど、ついつい私は“彼ならもっとできるはずだ”と考えてしまうんです。私からすれば、“もっと野球に打ち込むことができれば、もっともっと成績が上がるんじゃないか?”という思いがあります。もう十分頑張っていることは理解しているんです。でも、オフシーズンは予定がいっぱいでほとんど家にいないので、あまりにも多すぎる会食の回数を少しだけ減らしたり、お酒を飲む機会を減らしたり、もっと栄養管理に気を遣えば、もっともっと成績が向上するんじゃないか。そんな思いがあるんです」

 夫人から見れば、吉田は「オンとオフの落差が激しすぎる」という。シーズン中は徹底的にストイックに自分を追い込んで野球に打ち込み、シーズンオフが訪れればモードチェンジで、自由気ままな時間を過ごす。オンとオフを巧みに使い分けるメリハリのある生き方を認める思いはある一方、「もっとできるのでは……」ともどかしい思いもあるのだという。

 だからこそ、つい「もっと……」と口にしてしまう。以前、夫婦の間では、次のようなやり取りがあったという。子どもが寝静まった夜。夫婦二人だけの時間。口火を切ったのはゆり香さんだった。